借地権とは土地を借りて建物を建てて使用する権利です。
借地権は資産として相続財産に含まれるため、亡くなった人が使用していた借地権は相続人が受け継ぎます。
そのため、相続人が借地権を受け継ぐ場合は地主との名義変更手続きは不要であり、借地権を無償で返還する必要もありません。
一方で相続人が借地権を受け継いだとしても利用しないのであれば、地主に借地権を買い取ってもらうことなども検討する必要があります。
本記事では、相続した借地権の返還義務や相続人が借地権を手放したいときの対処法を解説していきます。
目次
1章 相続発生時に借地権を無償で返還する必要はない
借地権は土地を借りる権利であり、相続財産に含まれます。
そのため借地権を所有していた人が亡くなったときに、相続人が地主に借地権を無償で返還する必要はありません。
借地権は土地の価格の3〜9割程度の価値があり、都心部の借地権の中には価値が高いものがあります。
それだけの資産を地主に無償で返還してしまうのはもったいないので、借地権相続時はその後の活用や売却について慎重に判断しなければなりません。
1-1 地主は正当事由がなければ借地権の更新を拒否できない
法律によって借地人の地位は守られており、地主は正当事由がない限り借地権の更新を拒否することは認められません。
借地人が建物を建てている限り、借地権の更新は更新されると決められているからです。
地主側が借地権の更新を拒む場合には、下記に該当するような正当事由が必要です。
- 長期にわたり、建物が無人で使用されていない
- 建物が老化していて倒壊リスクがある
- 地主が不動産を所有していなく住む場所がない
「相続が発生し所有者が変わった」は正当事由に該当しないため、借地人の契約者が亡くなった人から相続人に受け継がれただけでは、地主側が借地権の更新を拒否することはできません。
2章 相続した借地権を手放す・活用する方法
借地権は相続財産に含まれるため、相続人が受け継ぎます。
しかし相続人が住んでいる地域と借地権のある土地が離れている場合など、相続人が借追件を活用するのが難しいケースもあるでしょう。
借地権の活用が難しい場合でも地主に無償で引き取ってもらうのはもったいないので、まずは下記の方法で手放すもしくは活用することを検討するのがおすすめです。
- 地主に買い取ってもらう
- 第三者に借地権を売却する
- 借地権と土地を等価交換する
- 地主と共同売却する
- 借地権付き建物を第三者に貸し出す
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 地主に買い取ってもらう
相続人が借地権を使用しないのであれば、地主に買い取ってもらうことを検討しましょう。
建物の状態が良い場合や地主が土地を使用したい場合は、借地権の買取や建物の引き渡しに応じてくれる可能性が高いです。
なお、地主に借地権を買い取ってもらうときは、建築されている建物は現物そのものを引き渡すケースが多いです。
地主に買い取ってもらう方法は借地権を手放す方法の中でも最も手軽な方法ですが、地主との交渉をしなければならない点に注意しましょう。
地主側は借地権を買い取る義務はないため、交渉が難航し相続人が希望の価格で借地権を売却できない可能性があります。
地主に借地権を買い取ってもらうときは、その地域の借地権割合で交渉を始めることが多いですが、足元を見られもっと安い金額で買い叩かれてしまう可能性もあります。
都市部など土地の価格が高い地域では借地権の金額も高くなりやすいので、地主との交渉が上手くいかない場合は他の方法も検討してみるのが良いでしょう。
2-2 第三者に借地権を売却する
借地権は地主だけでなく、第三者にも売却することが可能です。
地主が借地権の買取交渉に応じてくれないときは、地主以外に借地権を売却することもご検討ください。
ただし地主以外に借地権を売却する際には、売却について地主の許可が必要です。
第三者への借地権売却に地主の許可が必要なことは法律によって決められており、許可なしに借地権を売却してしまうと契約解除になってしまう恐れがあります。
そのため地主以外の第三者に借地権を売却する場合は、売却の許可について地主との交渉が必要です。
許可するかわりに譲渡承諾料を求める地主もいるため、状況によっては支払うことも検討しましょう。
なお地主が売却許可をしてくれない場合は、裁判所に申立てをして「地主の承諾に代わる許可」を得れば地主の許可がなくても売却できます。
2-3 借地権と土地を等価交換する
地主に借地権を買い取ってもらうことが難しい場合は、借地権と土地の等価交換も交渉してみましょう。
等価交換とは「地主に有償で借地権を返還すること」と「地主に土地を譲渡してもらう」を同時に行うことです。
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
- 土地の価格が1億円
- 借地権の割合が60%
上記のケースでは、借地権は6,000万円であり、土地の価格は4,000万円です。
等価交換すると借地人は土地の6割を受け取り、地主は土地の4割を所有し続けます。
等価交換をすれば借地人は土地の一部を完全に自分のものにできるので、第三者への売却も自由に行うことが可能です。
地主は土地の一部の所有権を失うものの、借地権を買い取る資金を用意する必要がないメリットがあります。
ただし等価交換も地主との交渉が必要ですし、土地の所有権を得た後も不動産の売却活動をしなければなりません。
そのため、状況によっては地主との交渉に強い弁護士や信頼できる不動産会社に依頼しながら手続きを進めることをおすすめします。
2-4 地主と共同売却する
地主も借地権を買い取る費用がなく地主も土地の売却を希望しているのであれば、地主と共同で借地権付き建物と借地の売却を進めるのも良いでしょう。
売却に成功した場合、相続人は借地権と建物両方の売却代金を受け取れます。
共同売却は地主に費用がないケースでも有効ではありますが、地主が「先祖代々受け継いできた土地で手放したくない」などの理由で売却に反対する場合もある点に注意しなければなりません。
2-5 借地権付き建物を第三者に貸し出す
相続人が不動産の運用に抵抗がないのであれば、借地権付き建物として第三者に貸し出すのも選択肢のひとつです。
賃料より借地権代が上回る場合は、第三者に貸し出したとしても利益が出ます。
なお第三者に借地権を売却する際には地主の許可が必要ですが、建物の賃貸であれば借地権の転貸借にあたらず地主の許可は不要です。
3章 借地権を相続するときの注意点
借地権を相続する際には、建築されている建物の名義変更手続きを行わなければなりません。
また、借地権は土地の価格の3~7割程度を占めるため、土地の価値によっては相続税の負担が重くなる点にも注意しなければなりません。
借地権を相続するときの注意点を詳しく見ていきましょう。
3-1 借地相続後は建物の相続登記をする
借地権自体は登記していないことがほとんどであり、相続後も法務局で名義変更手続きをする必要がありません。
一方で、亡くなった人が借りた土地の上に建築していた建物に関しては相続人へ名義変更手続きが必要です。
不動産を相続したときには、法務局で登記申請をして名義変更を行います。
また、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
相続登記は自分で手続きすることもできますが、司法書士に数万円程度で依頼も可能です。
3-2 借地権にも相続税がかかる
借地権は相続財産のひとつであり、相続税の課税対象です。
借地権は土地の3~7割程度の価格であり、都市部などの借地権は価値が高い場合もあるためご注意ください。
例えば借地権割合が60%で8,000万円の土地を借りていた場合は、借地権自体には4,800万円もの価値があります。
相続税には預貯金や不動産だけでなく借地権にもかかりますので、亡くなった人の資産状況によっては相続税の負担が重くなってしまいます。
まとめ
借地権は相続財産のひとつであり、借地借家法で守られているため相続を理由に地主が更新を拒むことはできません。
相続人は借地権を受け継ぐため地主に無償で返還する必要はなく、契約の名義変更手続きも必要ありません。
ただし、相続人が借地権を受け継いだ後も借地権代がかかり続けるので、相続人が借地権を使用しないのであれば地主に買い取ってもらう、第三者に売却するなども検討しましょう。
また、借地権自体は登記されていないことが多いため法務局での名義変更手続きは不要ですが、借りている土地の上に建築されている建物に関しては亡くなった人から相続人へ名義変更手続きをしなければなりません。
相続による名義変更手続きは自分で行うこともできますが、司法書士に依頼することも可能です。
グリーン司法書士法人では、相続登記に関する相談をお受けしています。
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