
- 嫁として気を付けたい4つの遺産問題
- 嫁が相続トラブルに巻き込まれないための対処法
- 嫁に遺産を遺してもらう方法
嫁は義父母の相続人ではないため、原則として遺産を受け継ぐことはできません。
しかし、義父母と同居をしていた場合や、長年にわたり義父母の介護をしてきた場合には、相続権がないことに納得できないと感じることもあるでしょう。
そのようなケースでは、やみくもに遺産を受け取りたいと主張するのではなく、特別寄与料を請求できないかを確認してみましょう。
また、義父母が元気なうちに、遺言書の作成や生前贈与などで遺産をもらえるように相続対策してもらうことも検討しましょう。
本記事では、嫁として気をつけたい遺産問題の代表的なパターンと、巻き込まれないための対処法について解説します。
1章 嫁として気を付けたい4つの遺産問題
相続の場面では、相続権のない「嫁」の立場であっても、家庭内の関係性や過去の経緯からトラブルの当事者となるケースが少なくありません。嫁として気をつけたい相続トラブルは、主に以下の通りです。
- 相続権がないにもかかわらず嫁が遺産分割に口を出す
- 夫に先立たれており子供が代襲相続人となる
- 生前贈与や遺贈を受けており他の相続人から反発される
- 長年にわたり故人の介護をしていたにもかかわらず遺産を受け取れない
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 相続権がないにもかかわらず嫁が遺産分割に口を出す
法律上は相続権がないにもかかわらず、嫁が義父母などの遺産分割に口を出すことでトラブルが起きる場合もあります。
確かに、故人と同居していたり、介護を担っていたりした場合には、遺産分割の場で発言したくなることもあるでしょう。
ただし、相続人でない人が積極的に意見を述べると「関係ないくせに」と相続人が反感を持つ場合もあります。
1-2 夫に先立たれており子供が代襲相続人となる
夫がすでに他界している場合、義父母の相続では子供(故人から見た孫)が代襲相続人となります。
子供が未成年の場合には、遺産分割協議に参加できないので、母親である嫁が法定代理人を務めることになります。
ただし、以下のようなケースでは、母親が代理人を務めることができません。
- 未成年の子供が複数いる場合(代理人はそれぞれ別の人物を選任しなければならないため)
- 嫁も遺贈などで義父母から財産を譲り受けた場合(利益相反となるため)
上記のようなケースでは、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらわなければなりません。
なお、特別代理人の候補者には、相続に関係がない、信頼できる親族などを立てるのが一般的です。特別代理人の選任申立てには、時間や労力がかかるため、事前に準備しておかないと、他の相続人から「手続きが進まない」と不満を持たれることもあるでしょう。
1-3 生前贈与や遺贈を受けており他の相続人から反発される
嫁が同居していた義父母から、生前贈与や遺贈を受けるケースも珍しくありません。
義父母は嫁に対する感謝の気持ちから財産を譲ったとしても、他の相続人からすれば「不公平だ」「もらいすぎでは」と感じることもあるでしょう。
過去の生前贈与や遺贈について無効だと主張する相続人も中にはいるかもしれません。
1-4 長年にわたり故人の介護をしていたにもかかわらず遺産を受け取れない
義父母の介護を何年にもわたって担っていた嫁が、相続の場面ではまったく報われないというケースもあります。
嫁には義父母の相続権がないため、相続人から感謝の言葉すら得られず、無念な思いを抱えることも中にはあるでしょう。
長年にわたり、嫁が義父母の介護を無償でしていた場合などは、特別寄与料を相続人に対して請求できる場合もあります。
請求しやすいように、介護記録を保管しておくと良いでしょう。
2章 嫁が相続トラブルに巻き込まれないための対処法
嫁が義父母の相続トラブルに巻き込まれないようにするには、以下のような対策をしておきましょう。
- 嫁は法定相続人ではないと理解しておく
- 生前贈与を受ける際には贈与契約書を作成しておく
- 遺贈を受ける際には遺言執行者を選任してもらう
- 特別寄与料を主張できないか確認する
- トラブルになりそうであれば司法書士・弁護士に相談する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 嫁は法定相続人ではないと理解しておく
大前提として、嫁は義父母の法定相続人ではないと理解しておきましょう。
義父母の相続権を持つのは、子供(夫やその兄弟姉妹)、配偶者(義母または義父)などであり、嫁本人には相続権がありません。
相続権について理解しておかないと、「自分が介護を頑張ったのに」「同居していたのに」といった気持ちが強くなり、遺産分割に口を出してしまい、トラブルの原因となることもあります。
2-2 生前贈与を受ける際には贈与契約書を作成しておく
義父母から金銭や不動産などの生前贈与を受ける場合には、必ず贈与契約書を作成しておきましょう。
贈与契約書を交わしておけば、義父母が亡くなってからも、贈与の事実や義父母も贈与に合意していたことを証明できます。
2-3 遺贈を受ける際には遺言執行者を選任してもらう
遺言書によって遺贈を受ける場合は、遺言執行者を選任してもらうことをおすすめします。
遺言執行者がいないと、他の相続人が遺言内容に異議を唱えてきたり、遺贈の手続きがスムーズに進まなかったりする恐れがあるからです。
遺言執行者とは、遺言内容を確実に実行する役割を担う人物です。
遺言内容に従って、遺産の名義変更手続きを単独で行えますし、他の相続人に遺言内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人や受遺者がなることもできますが、相続人とのトラブルが予想される場合には、司法書士や弁護士などの専門家を選任してもらうと良いでしょう。
2-4 特別寄与料を主張できないか確認する
長年にわたり、義父母の介護や事業の手伝いを無償でしてきた場合には、特別寄与料を主張できないか確認してみましょう。
特別寄与料とは、故人の親族で故人の財産の維持または増加に貢献した人物が、自分の貢献に見合った金額を相続人に対して請求できる制度です。
ただし、特別寄与料は他の相続人に対して金銭の支払いを求めるものであり、相続人が同意しない場合には、家庭裁判所で調停や審判をしなければならないこともあります。
請求してから実際に金銭を受け取れるまで時間と労力がかかる場合もありますし、思っていたより少ない金額しか受け取れない可能性もあるでしょう。
2-5 トラブルになりそうであれば司法書士・弁護士に相談する
相続に関する問題は、法律や制度の理解不足だけでなく、感情的な対立によって泥沼化することが多々あります。
「このままだと揉めそうだ」「他の相続人から嫌なことを言われている」と感じたら、早めに司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
特に、相続に精通した弁護士であれば、相続トラブルの仲裁や解決の手助けもしてくれますし、遺産分割調停や審判を行うことになった場合も代理人になってもらえます。
3章 嫁に遺産を遺してもらう方法
嫁が長年にわたり、義父母の介護をしていたケースなどでは、特別寄与料を請求できる場合があります。
しかし、特別寄与料の請求について、他の相続人が反発する恐れもありますし、確実に特別寄与料を受け取れるとは限りません。
嫁の立場で遺産を確実に受け取りたい場合には、以下のような方法で相続対策をしてもらいましょう。
- 遺言書を作成してもらう
- 嫁を受取人とした生命保険に加入してもらう
- 生前贈与してもらう
- 義両親と養子縁組する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 遺言書を作成してもらう
最も確実な方法は、義父母に遺言書を作成してもらうことです。
遺言書がある場合、原則として、その内容通りに遺産分割が行われるからです。
ただし、故人の子供や配偶者には遺留分と呼ばれる最低限度の遺産を受け取れる権利が保障されています。
遺留分は遺言より優先されるため、「嫁に全財産を譲る」といった遺言書は、他の相続人の遺留分を侵害する恐れがあります。
遺留分トラブルを避けるためにも、嫁に遺産を遺す遺言書を作成する場合には、遺言内容について司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
3-2 嫁を受取人とした生命保険に加入してもらう
嫁を受取人とした生命保険に加入すれば、義父母から嫁に遺産を遺せます。
生命保険金は、遺産分割の対象にはならず、受取人固有の財産とされるからです。
ただし、すべての保険会社が嫁を保険金受取人と指定することを認めているわけではないのでご注意ください。
多くの生命保険会社では、受取人は「被保険者の配偶者もしくは二親等内の血族」などと指定してる場合もあります。
そのため、嫁を保険金受取人にしたいと考えても、できない場合もあるでしょう。
また、生命保険金には相続税の非課税枠が用意されていますが、嫁は基本的に法定相続人ではないため非課税枠を利用できません。
そのため、嫁が生命保険金を受け取った場合、相続税の負担が重くなる可能性があります。
3-3 生前贈与してもらう
義父母が元気なうちに、財産の一部を嫁に贈与してもらうこともひとつの方法です。
例えば、同居している住居の持分を共有名義にしたり、預貯金を贈与してもらったりするケースが考えられるでしょう。
贈与をすれば、義父母から嫁に資産を移せるものの、年間110万円を超えると贈与税がかかる点には注意しなければなりません。
また、将来的なトラブルを避けるためにも、必ず贈与契約書を交わしておくことをおすすめします。
3-4 義両親と養子縁組する
義父母と嫁が養子縁組すれば、嫁も遺産を受け取れます。
養子は実子同様の相続権を持つので、義父母が遺言書を用意しなくても、嫁も相続人になれます。
ただし、相続対策で義父母と嫁が養子縁組する際には、以下のような点に注意しましょう。
- 実子の相続分が減ってしまうため実子が反発する恐れがある
- ひとたび養子縁組すると、夫自身と離婚・死別したとしても義父母との養親子関係は解消されない
- 養子縁組が相続税の節税目的と判断されると否認(税務上の優遇を受けられなくなること)される恐れがある
まとめ
嫁は義父母の相続人ではないため、相続の場面では、嫁の立場はあくまで外側とみなされがちです。
しかし、義父母と嫁が生前深い関係を築いてきた場合、納得できないと感じることもあるでしょう。
嫁が義父母の遺産を受け取る方法のひとつに特別寄与料の請求がありますが、認められるまでのハードルが高いことを理解しておきましょう。
そのため、嫁が義父母の遺産を受け取りたいのであれば、義父母が元気なうちに相続対策をしてもらうことをおすすめします。
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