相続放棄による物権変動について登記を備える必要はないとした判例

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相続放棄と登記 最高裁昭和42年1月20日判決

この判決は、「相続放棄によって法定相続分以上に財産を相続した場合に、そのことを第三者へ主張するために登記が必要か」という問題について「登記は不要」と判断したものです。

この判決について、まず物権変動と登記についての一般的な説明をした後、相続放棄について判決がなぜこのような判断をしたのか解説していきます。


(1)総論:物権変動と登記

民法177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

この民法177条が物権変動と登記についての基本条文です。

具体例で説明したほうが分かりやすいので、典型的な「不動産の二重売買」を例に出して説明します。

【例】Bさんは、銀行でローンを組んでマイホームをA社から購入した。A社は、Bさんとの契約の後、同じ不動産について、Cさんとの間でも売買契約を結んだ。

二重売買の図解

このとき

  1. Cさんは、Bさんの契約が先にあることを知らなかった。
  2. Cさんは、Bさんの契約が先にあることを知っていた。
  3. Cさんは、Bさんの契約が先にあることを知っていただけでなく、個人的にAさんを恨んでいたため、嫌がらせをしてやろうと思っていた。

例えばコンビニでパン1個を買った際、お金を払えばそのパンは自分のものになります。
他人から「寄越せ」と言われても、パンは自分のものだと主張できます。お金を払う以外に特別なことは何もしなくていいのです。

これに対して、不動産の場合はそう単純にはいきません。
上の例で、Aさんは、B社にお金を払った(ローンを組んだ)だけの状態では、Cさんから「この家は自分が買ったものだから私(C)のものだ」と言われた場合に、Cさんに対してAさんは「先に契約をしたからこの家は自分(A)のものだ」とは言えないのです。

ここで出てくるのが、冒頭の民法177条です。
不動産については、単に契約をするだけでなく、登記を備えていなければならない、とされているのです。

このため、AさんはB銀行と契約をした後、不動産の登記をA名義に変えておかないと、Cさんに対して「この家はAのものだ」と言えないのです(この時のAさんの登記を所有権移転登記といいます)。

では、なぜこのような規定になっているのでしょうか。

それは、「不動産取引の安定のため」と言われます。
不動産の購入は、多くの一般人にとってはおそらく人生最大の買い物でしょう。
そのため、誰が所有者かを他の物より厳格に決めておかないとトラブルになった際に非常に面倒なことになりやすいです。

日本中でこのようなトラブルが続出すると大変なことになり、誰も安心して不動産を買うことができません。
そこで、登記制度を作り、そこに所有者として登録されている者を所有者として扱おうとしたのです。そうすれば、誰でも登記簿を見れば所有者が分かるので、安心して人生最大の買い物ができる、というわけです。

【発展事項】背信的悪意者廃除論

登記は不動産取引の安定のためにある、と説明しました。

そうすると、原則は登記簿に載っている者を所有者とすればいいのですが、それを杓子定規に当てはめると逆に取引の安定を害するケースも出て来ます。

冒頭の例の(1)~(3)を見てみましょう。

(1)では、何も知らないCさんが先に登記を備えた場合、Cさんが所有者とすることに問題はなさそうです。契約直後に登記をしていなかったAさんの方が悪いのです。
(3)では、Aさんを害してやろうという積極的な意識をもったCさんをあえて保護する必要はなさそうです。登記をすぐにしなかったAさんにも非はあるでしょうが、それを考えてもCさんを守ることはAさんにとって酷なことです。
(2)はどうでしょうか。不動産取引の現実を考えると、Cさんが意図せずともAさんの存在を知ってしまうことは十分にあります。Aさんの保護をそこまで広げると逆に取引の安定を害するので、単に知っていただけの状態では、先にCさんが登記を備えた場合にはCさんを保護してよいとなります。

実務や判例ではこのように考えられており、積極的な害意を持つ者に対しては登記を備えてなくても所有者であることを主張できるとされています。条文には書いてありませんが、このような理論のことを「背信的悪意者廃除論」と言います。

物権変動と登記のおおまかな説明は以上です。まとめると次のようになります。

  1. 不動産の所有権を他人に主張するには、登記簿上の所有者を自分にしておかなければならない
  2. 他人が積極的な害意まで持っている場合には、例外的に登記がなくてもよい

(2)各論:相続放棄と登記

1.問題点

民法938条  相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続放棄とは、ある人の相続に際して、一切の相続財産を承継しないとすることです。
相続放棄をすると、その人は相続の最初から相続人でなかったという扱いになります。なお、相続の開始時点は被相続人の死亡時です(民法896条)。

一般に、相続において誰がどれだけの財産を相続するかは、遺言などがなければ法律で定められた割合に応じて決まります。
これを法定相続分といいます。
超大雑把に言えば、相続人が2人なら2分の1ずつ、3人なら3分の1ずつという具合です。

ここで相続人の一人が相続放棄をすると、相続人の数が減るので、一人当たりの相続割合が増えます。具体的には、不動産の共有持分の割合が増えます。
そして、この増加分の変動について、登記を備える必要があるかが問題になったのが冒頭の判例です。

2.裁判所の判断

この問題について、裁判所は次の通り判断しました。

所定の期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をすると、相続人は相続開始時に遡って相続開始がなかったと同じ地位に置かれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。

つまり、相続放棄を原因とする物権変動について、家庭裁判所への申述の他に登記まで備える必要はないということです。
その理由は何でしょうか。裁判所は次のように述べています。

民法が相続の承認、放棄をなすべき期間を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり・・・

民法177条がある理由は「不動産取引の安定のため」でした。

それに対し、相続放棄は「相続人の利益を保護」するものです。簡単に言えば目的が違うということですね。

この両者を比較したときに、裁判所としては相続人の利益保護を優先すべきだ、という価値判断になったため、このような結論になったのです。

もちろん、裁判所の判断の裏には様々な考慮要素がありますし、この結論に対しても様々な意見や批判があります。結論は同じとしても理由付けが異なるという主張もあります。

しかし、ここでそれらを詳細に紹介すると複雑になりすぎますし、あまりにも専門的な内容になってしまうため、それはしないでおきます。

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