- 遺留分放棄とは何か
- 遺留分を放棄するメリット・デメリット
- 遺留分放棄をする方法
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められる遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は権利ではあるものの必ず行使する必要はなく、相続が発生する前に放棄することも可能です。
遺留分を放棄すれば、相続発生時に相続分が遺留分よりも低くなっても遺留分侵害額請求を行えなくなります。
遺留分放棄は相続が発生する前に行うこともできますが、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
亡くなる前に相続人に対し「遺産を長男に遺すため遺留分放棄しろ」などと強制はできないのでご注意ください。
本記事では、遺留分放棄とは何か、メリットやデメリット、手続きの流れを解説します。
遺留分については、下記の記事で詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
目次
1章 遺留分放棄とは
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
そして、遺留分放棄とは名前の通り遺留分を放棄し最低限の保障を受けなくする手続きです。
「相続する財産が遺留分より少なくても文句を言わない」と言い替えることもできます。
例えば、遺留分が500万円であり、相続した財産が200万円の場合を考えてみましょう。
遺留分の放棄をしていなければ遺留分が侵害されている300万円を遺産を多く受け継いだ人物に請求できます。
一方で、遺留分の放棄をしていれば遺留分侵害額請求を行えません。
なお、相続人中の誰かが遺留分を放棄しても他の人の遺留分は増えません。
放棄された分は遺言で自由に分配できる遺産になります。
1-1 遺留分放棄できる人
遺留分放棄を行えるのは、遺留分を請求する権利を持つ下記の人物です。
- 亡くなった人の配偶者
- 亡くなった人の子供や孫
- 亡くなった人の両親や祖父母
亡くなった人の兄弟姉妹は相続人ではありますが、遺留分が認められないので遺留分放棄をすることもできません。
他にも、相続欠格になった人や相続放棄した人も、相続人ではなかった扱いになるので遺留分放棄を行えません。
1-2 遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄とよく似た制度に相続放棄がありますが、両者は全くの別物です。
遺留分放棄は最低限の相続分の保証を受けないことでしたが、相続放棄はそもそも相続をしないことです。
遺留分放棄では、相続する権利そのものは放棄していないため、どんなに金額が少なくても相続はします。これが遺留分放棄と相続放棄の1番の違いです。
他にも、遺留分放棄は主に相続発生前にするのに対し、相続放棄は相続発生後にするなどの違いはあります。
遺留分放棄と相続放棄の違いは、下記の通りです。
遺留分放棄 | 相続放棄 | |
放棄する権利 | 遺留分請求権 | 相続権 |
相続の可否 | できる | できない |
遺産分割協議 | 参加する | 参加しない |
借金の相続 | する | しない |
代襲相続の可否 | できる 遺留分の請求はできない | できない |
他の相続人への影響 | なし 他の人の遺留分はそのまま | あり 他の人の相続分が増える |
相続発生前の放棄 | 家庭裁判所の許可が必要 | できない |
相続発生後の放棄 | 自由にできる | 家庭裁判所で手続きをする (3ヶ月以内) |
遺留分放棄と相続放棄の違いで最も注意すべき点は「遺留分放棄をしても、相続財産に借金が含まれれば相続してしまうこと」です。
遺留分を放棄すれば相続争いに巻き込まれる可能性は低くなるでしょう。
しかし、相続人であることには変わりなく、遺留分を放棄しても遺産分割協議には参加しなければなりません。
もし、相続トラブルや手続き、話し合いに全く関わりたくないのであれば遺留分放棄ではなく相続放棄をおすすめします。
なお、遺留分放棄をしたうえで相続発生後に相続放棄をすることも可能です。
相続放棄するか悩んだ場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのも良いでしょう。
専門家であれば相続人調査や相続財産調査を行った上で相続放棄すべきかのアドバイスや相続放棄の手続きまで一括で対応可能です。
2章 遺留分放棄のメリット・デメリット
遺留分放棄すれば遺産分割協議が円滑に進みやすく、相続トラブルに巻き込まれるリスクを減らせます。
事業承継を行うため特定の人物に相続を集中させたい場合は、遺留分放棄のメリットが大きいといえるでしょう。
一方で、遺留分放棄すると原則として取り消せず、もらえる遺産が少なくなってしまう恐れがあります。
遺留分放棄のメリットとデメリットを確認していきましょう。
2-1 遺留分放棄のメリット
遺留分放棄のメリットは遺産分割を円滑にできることです。
遺産分割は全ての遺産をきっちり平等に分けることが最適とは限りません。
事業や扶養のために1人に集中させる方が良い場合もあるでしょうし、遺産だけでなく生命保険、生前贈与なども含めて調整する方が公平になる場合もあります。
遺留分があると偏った内容の遺産分割が難しくなりますが、遺留分放棄をすれば遺産分割の自由度がより高まります。
また生前のうちに遺言書の作成など相続対策をしていたとしても、対策内容が遺留分を侵害していると遺留分トラブルが起きる可能性もゼロではありません。
遺言を書いたときは相続人みんなが納得しているように見えても、いざ相続が始まるとやっぱり遺産が惜しくなる、以前は経済的に余裕があったが今はそうでもなくて遺産が欲しくなる状況は十分に考えられるからです。
相続対策について話がまとまった段階で、遺留分を放棄していればこのような争いを避けられます。
2-2 遺留分放棄のデメリット
遺留分放棄のデメリットは、代襲相続の場合も含めて遺留分の請求ができなくなることです。
遺留分放棄は一度手続きすると、原則として撤回できません。
放棄時は「生活に余裕があるから遺産なんて必要ない」と思っていても、いざ相続するときになったら状況が変わっていて少しでも多く遺産が欲しいと感じる可能性もあります。
それでも過去に遺留分の放棄をしていれば、遺留分の請求は不可能です。
そして遺留分の放棄は代襲相続後も引き継がれるため、放棄後に自分が亡くなり代襲相続が発生したとしても代襲相続人が遺留分を請求することはできません。
遺留分は法律で認められた正当な権利であり、放棄するよう迫られていても納得できなければ放棄してはいけません。
代襲相続とは、本来相続人に当たる人物が相続発生前にすでに死亡している場合に発生します。
代襲相続が発生すると、すでに亡くなった相続人のかわりに子や孫が代襲相続人になり相続権を持ちます。
例えば父親が亡くなり相続が発生したときに、本来相続人である子供が死亡している場合は、孫が代襲相続人として父親(孫から見た祖父)の財産を受け継ぎます。
3章 遺留分放棄がおすすめなケース
遺留分放棄にはメリットとデメリットがあるため、すべての人におすすめできるわけではありません。
遺留分放棄をおすすめできるのは、相続トラブルをできるだけ回避したいケースや事業承継などで特定の人物に遺産を集中させたいときなどです。
具体的には、下記のケースでは遺留分放棄を検討しても良いでしょう。
- 相続で揉めてほしくない
- 事業を継がせたい
- 遺産を慈善団体等に寄付したい
- 遺産が必要ではない
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続で揉めてほしくない
離婚歴があり前妻との間に子供がいるケースや婚外子がいるケースでは、相続トラブルが起きやすいです。
前妻の子や婚外子であっても、故人の子供であることに変わりはないため、相続権を持つからです。
亡くなった人が遺言書などを用意していない場合は、前妻の子や婚外子も相続人として後妻や後妻の子と一緒に遺産分割協議を行わなければなりません。
複雑な関係の人物同士が遺産分割協議や相続手続きを行う状況を回避するために、前妻の子に生前贈与する代わりに遺留分放棄を求める対策も有効です。
前妻の子であるAが提案を受け入れれば、贈与を受け遺留分放棄の手続きを行えます。
そこで紛争を避けるために夫(被相続人)は生前に対策をすることにしました。夫はAに対して生前贈与をする代わりに遺留分を放棄してもらえないかと持ち掛けました。Aはそれを受け入れ、贈与を受けて遺留分を放棄しました。
3-2 事業を継がせたい
家族経営で事業を行っている人や個人事業主の人は、子供を跡取りとして会社の資産を継がせることや株式を譲渡することを考えるケースも多いです。
中小企業の経営者の相続財産の多くは自社株が占めるケースも多く、相続時に事業承継をすると相続財産に大きな差が生じるケースので注意が必要です。
事業を継ぐ相続人とそれ以外の相続人で遺産分割の内容に偏りが生じやすいため、遺留分トラブルや相続トラブルが起きやすくなります。
トラブルの発生や故人が所有していた自社株が相続人それぞれに分散してしまうことを避けるため、事業を継ぐ相続人以外に生前贈与を行い遺留分放棄をしてもらうことも検討しましょう。
3-3 遺産を慈善団体等に寄付したい
遺産を慈善団体等に寄付したいときには、遺留分に注意する必要があります。
「遺産は全てボランティア団体に寄付する」という遺言を残しても、配偶者や子どもなどの遺留分権利者がその団体に対して遺留分を主張する恐れがあるからです。
遺留分トラブルが起き団体と遺族が揉めてしまうことは、遺言者も望まない可能性が高いでしょう。
そこで、妻にあらかじめ住んでいるマンションの名義を移しておき遺留分を放棄してもらった上で、遺産をボランティア団体に寄付する遺言を書くケースもあります。
3-4 遺産が必要ではない
すでに生前贈与を受け生活に余裕がある相続人の中には、遺産を必要としていない人もいるでしょう。
例えば、長男は親からマイホーム資金の援助を受けたことがあり、仕事も順調で経済的にも余裕がある場合は遺産を受け取らなくても良いと考える可能性があります。
しかも長男が実家を出て離れたところに住んでいるので、遺産は両親の近くに住んでいる次男がもらえばいいと考える可能性が高いです。
このようなケースでは、長男が遺留分放棄をすることで次男に財産を遺しやすくなります。
4章 遺留分放棄をおすすめできないケース
遺留分放棄を求められたとしても、放棄する理由と放棄することによる見返りに納得できない場合は、遺留分を放棄するのはやめた方が良いでしょう。
後述しますが、遺留分を放棄してしまうと撤回することは難しいからです。
遺留分放棄をしてしまい、遺言書などで「自分以外の人物にすべての遺産を相続させる」と指定されてしまうと、自分は遺産を受け取ることができなくなってしまいます。
例えば、親から「特に可愛がっていた長男に遺産を遺したいから、次男は諦めて遺留分を放棄してほしい」と言われ、納得できない場合は応じる必要がありません。
5章 生前に遺留分を放棄する方法
遺留分の放棄は相続が始まる前でも後でも可能ですが、相続発生前に遺留分放棄をする場合は家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分は遺された配偶者や子供のために認められた権利であり、生活を保障するために設定されています。
故人や遺産を独占したい相続人に無理やり遺留分放棄させられないようにするために、家庭裁判所が判断し許可する流れとなっています。
相続発生前に遺留分放棄する方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 遺留分放棄したい人 |
手続き先 | 被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
|
申立書や財産目録は裁判所のサイトからダウンロード可能です。
申立書や財産目録を作成するためには財産の調査や相続人の確認も必要になるため、戸籍謄本や財産を証明する書類を収集しましょう。
上記の必要書類を提出した後は、下記の流れで家庭裁判所が遺留分放棄が妥当か判断します。
- 申立てが受理される
- 審問の期日が通知される
- 期日に家裁に行って審問を受ける
- 許可がおりて通知される
- 証明書を発行してもらう
申立てが受理されたら審問の日程が通知されるので、その日に家庭裁判所に行って審問を受けます。
審問とは面談やヒアリングのようなものであり、遺留分放棄の意味をちゃんと分かっているか、誰かに強要されていないかを直接話して確認されます。
取調べや尋問のように問い詰めるものではないので安心してください。
その後、許可をもらえれば、許可がおりた旨の通知が来ます。
遺留分の放棄としてはここまでで完了していますが、証明書をもらうことを忘れないようにしましょう。
許可がおりたかどうかは申立人だけしか分からないので、そのままではトラブルの原因になるからです。
遺留分放棄の許可をもらったという証明書をもらい、相続人で共有しましょう。
5-1 家庭裁判所が遺留分放棄を認めるかの基準
遺留分放棄の申立てが行われると、家庭裁判所が遺留分放棄が妥当か判断をします。
申立書や審問では下記の内容を主に確認されます。
- 本人の自由な意思に基づいているか
- 放棄の理由に合理性・必要性があるか
- 同等の代償があるか
上記のように、遺留分放棄の申立人が過去に遺留分相当分の贈与を受け取っていると、遺留分放棄の許可を得やすいです。
贈与は許可後に行うものでも問題はありませんが、申立て時に受け取っていた方が許可はおりやすい傾向があります。
5-2 遺留分放棄の撤回は原則不可
遺留分放棄が家庭裁判所で認められた後は撤回も一応可能ではありますが、実際には難しいでしょう。
なお、遺留分放棄の撤回を行う際にも家庭裁判所が判断します。
家庭裁判所の判断基準は「遺留分放棄を認めた事情に変更があったかどうか」ですが、裁判所は撤回を認めることにあまり積極的ではありません。
例えば、遺留分放棄に錯誤・強迫・詐欺があったときには放棄の意思表示を取り消せる可能性が高いです。錯誤は言い間違いや書き間違い、重大な勘違いのことですが、錯誤があったことも簡単には認められない可能性が高いです。
さらに、錯誤により遺留分放棄の申立てを行った場合は、そもそも家庭裁判所が許可しないでしょう。
以上のように、放棄の撤回は一応可能ではあるものの簡単にはできません。
遺留分放棄したら撤回はできないと覚悟したうえで、申立てをしましょう。
6章 相続発生後に遺留分を放棄する方法
相続発生後に遺留分を放棄するときには、許可や一定の手続きは必要ありません。
相続人が自由に放棄できますが、後々のトラブル防止のために書面で明確にしておくのがよいでしょう。
言った言わないの争いになったり、後からやっぱり請求すると言い始めて揉める可能性がゼロではないからです。
また、遺留分は侵害されていたら必ず請求しなければならないものではありません。
遺留分を侵害されていたとしても問題がなければ請求をしないことも可能ですので、侵害分を請求せず放置していれば実質放棄になります。
遺留分の時効は1年なので、亡くなってからすでに1年経っている場合も特に行動を起こす必要はありません。
すでに遺産分割が円満に済んでいるのならばそのままにしておきましょう。
7章 遺留分を放棄させる方法
遺留分を本人の意思に反して放棄させる方法はありません。
遺留分は遺された配偶者や子供、両親に認められる重要な権利であり、無理やり放棄できないように制度化されています。
それでも遺留分を放棄させたいのであれば、生前贈与のかわりに遺留分放棄してもらうのも選択肢のひとつです。
遺留分放棄を頼まれた相続人も納得しやすいですし、裁判所に申立てした際にも許可を得やすくできるからです。
8章 遺留分放棄を断られたときにすべきこと
相続人に遺留分放棄を断られた場合、少しでも相続トラブルが起きるリスクを減らすために生前のうちに相続対策や遺留分対策をしておきましょう。
相続対策や遺留分対策として有効な方法は、主に下記の通りです。
- 遺言書を作成する
- 遺留分支払い用の資金を用意しておく
- 相続発生前に遺留分を減らしておく
- 家族に遺留分や遺産分割内容について理解を求める
- 事業承継のための遺留分の特例を活用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
8-1 遺言書を作成する
特定の人物に財産を遺したい場合は、遺言書を作成しておくのがおすすめです。
遺言書を作成しておけば、自分が希望する人物に財産を遺せます。
ただし遺留分は遺言書に書かれた内容よりも優先されるため、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成するとトラブルに繋がる恐れがあります。
遺留分トラブルが起きるリスクを減らすためにも、遺留分対策も同時に行っておく、相続に詳しい司法書士や弁護士に遺言書作成を依頼をするなどの対策が必要です。
遺言書作成時には、遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ人物です。
遺言執行者は相続人がなることもできますが司法書士や弁護士に遺言執行者を依頼すれば、相続人同士の対立などを減らせます。
また相続人が「遺言は無理矢理書かされたものだ」「遺言は偽物だ」など疑う可能性も減り、遺言書の内容通りの遺産分割を行えるメリットがあります。
8-2 遺留分支払い用の資金を用意しておく
遺言の内容が遺留分を侵害してる場合や偏った内容の遺産分割になりそうなケースでは、遺産を多く受け継ぐ人物が遺留分支払い用の金銭を用意しておくことも大切です。
相続対策をする際に遺留分侵害額の計算をしておけば、事前に支払い用の金銭を用意できます。
例えば生命保険金は遺産分割の対象財産には含まれないため、遺留分侵害額請求されるであろう相続人を保険金の受取人にしておけば支払い用の現金を用意可能です。
8-3 相続発生前に遺留分を減らしておく
相続人1人あたりの遺留分を少しでも減らすために、下記の相続対策を行うことも有効です。
- 生前贈与や生命保険の加入などで遺産総額を減らす(遺産総額が減れば、遺留分も減ります)
- 養子縁組などにより相続人を増やす(相続人が増えると、各人の遺留分も減ります)
ただし遺産額に比して過大な保険金である場合は、遺留分算定のもとになると裁判所に判断されたケースもあるため、遺留分対策を行うには資産や相続人の状況に合わせ慎重な判断が必要です。
そのため、自己判断で遺留分対策をするのではなく、相続対策に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら行うのが良いでしょう。
8-4 家族に遺留分や遺産分割内容について理解を求める
事業承継のため次期後継者に自社株を相続させたい、障害を持つ娘に財産を多く遺したいなどの事情があるケースでは、家族に遺留分や遺産分割内容について理解を求めるのも良いでしょう。
相続トラブルや遺留分トラブルが発生しやすいのは、相続発生後に「こんな相続聞いてない」「予想していた遺産分割と遺言書の内容が違う」といったケースが多いです。
トラブルを避け、自分が亡くなった後も家族仲が良い状態でいてほしいのであれば、生前のうちに遺産分割の内容について理解を求めましょう。
8-5 事業承継のための遺留分の特例を活用する
中小企業の経営者や個人事業主は、後継者以外に遺留分放棄を依頼するだけでなく「事業承継のための遺留分の特例」を活用することも考えましょう。
事業承継のための遺留分の特例とは、遺産のほとんどが自社株となる中小企業経営者や個人事業主の事業承継を行いやすくする特例です。
特例を活用すると、事業用資産を遺留分の計算対象に含めない、遺留分の計算対象となる自社株の金額を一定額に固定しておくなどができるようになります。
特例を活用するとできることは、下記の通りです。
除外合意 | 事業用資産を遺留分の計算対象に含めないと合意する |
固定合意 | 遺留分の計算対象となる自社株の金額について一定額で固定すると合意する |
付随合意 | 除外合意や固定合意をする際に、事業用資産や自社株以外の一部の財産も遺留分の計算対象に含めないと合意する |
上記のように、事業承継のための遺留分の特例を活用すれば、遺留分の金額を減らせる、固定できるので遺留分対策をしやすくなります。
ただし、特例を利用するには一定の要件を満たす必要があるので、活用する場合は相続や事業承継に精通した専門家に依頼するのが良いでしょう。
まとめ
遺留分放棄をすれば、遺留分を請求する権利を失い、受け継ぐ財産が遺留分より少なくても請求することはできなくなります。
一方で遺留分放棄は相続放棄と異なり、財産を相続しなくなる権利ではないため、遺産分割協議などへの参加は必要です。
そのため、完全に相続トラブルに巻き込まれたくない、手続きに関わりたくない場合は遺留分放棄だけでなく、相続放棄の手続きも行いましょう。
遺留分放棄は相続発生前に行うこともできますが、家庭裁判所の許可が必要です。
許可を得る際には放棄する人が遺留分相当の代償を受け取っているかなども基準になるため、一方的に放棄させるのではなく生前贈与するかわりに遺留分放棄させるなどの対策をしましょう。
遺留分放棄や遺留分対策については、自分で判断するのは難しいため、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら進めることもご検討ください。
グリーン司法書士法人では、相続対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
生前の遺留分放棄にかかる費用は?
生前のうちに遺留分を放棄する際には、家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所に許可を求める際には、下記の費用がかかります。
- 収入印紙800円分(申立書に貼る)
- 連絡用の郵便切手代
相続放棄すると他の相続人の遺留分はどうなる?
相続放棄をしても他の相続人の遺留分に影響を与えないと法律によって決められています。
したがって、相続放棄をした相続人がいても他の相続人の遺留分が増えることはありません。
遺留分放棄を撤回できるケースとは?
遺留分放棄の際に錯誤・強迫・詐欺があった場合は、放棄の撤回が認められる可能性があります。
生前に遺留分放棄すると書いた念書は後から無効にできる?
相続発生前に遺留分放棄をするには、家庭裁判所の許可が必要なため「遺留分を請求しません」と書いた念書は無効にできます。
一方で、相続発生後は家庭裁判所の許可が必要ないため、念書が有効になる可能性があります。
遺留分の放棄をすると遺産を一切受け取れない?
遺留分の放棄はあくまで「遺留分を請求する権利を放棄する」ことであり、遺産を一切受け取らないと宣言するわけではありません。
したがって、遺留分放棄をしても遺産を受け取れますし、遺産分割協議などで自分の相続分を主張することは可能です。