【コラム】未成年の女性が歳上を養子に!? 『シンケンジャー』で学ぶ養子縁組のルール

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司法書士山田 愼一

 監修者:山田 愼一

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【CASE FILE】

(以下はフィクションです)

ある日、司法書士事務所を訪れた、和装の若い女性。
凛とした空気を纏った彼女は開口一番、
「ある青年を養子にして家督を譲りたいのだが……」と一言。

 

はて、こんな若い女性が養子縁組?
首をかしげる司法書士を前に、彼女はさらに続ける。

 

「相手のほうが歳上なのだが、問題ないだろうか」

……いやいや、それは問題大ありですよ。


戦隊ヒーローに見る「養子縁組」のルール

今回は、2009年に放送された特撮ヒーロー番組『侍戦隊シンケンジャー』を題材に、養子縁組のルールについて見てみましょう。

松坂桃李さんや高梨臨さんの出演でも知られるスーパー戦隊シリーズ第33作『侍戦隊シンケンジャー』は、その名の通り、現代に生きるサムライ達の活躍を描いた作品。
メンバー達は江戸時代から続く侍の家系であり、「殿」と呼ばれるシンケンレッド・志葉丈瑠(たける)と若き家臣達が織りなす絆の物語が、視聴者から高い評価を得ています。

本作の終盤では、薫という若い女性が登場。
詳細なネタバレは避けますが、明らかに丈瑠よりも歳下の彼女が、丈瑠を養子にして「母子」になるという驚愕の展開がありました。

「養子の方が歳上なのはおかしい」というのは作中でも突っ込まれているポイントですが、さて、このようなことが法律上可能なのでしょうか。

現行法上、年長者を養子にすることは不可

結論からいうと、現在(もちろん放送当時も)の日本の法律では、歳下の薫が歳上の丈瑠を養子にすることはできません。

民法には以下のように定められています。

第793条
尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。

これは養子縁組に関する最も基本的な規定の一つであり、自分より歳上の者を養子にすること、また仮に歳下であっても親族関係上の「尊属」に該当する者を養子にすることはできないのです。

20歳未満の者が養子を取ることも不可

民法には、こうも定められています。

第792条
20歳に達した者は、養子をすることができる。

 

※2018年以前は「成年に達した者は、養子をすることができる。」という条文であり、この「成年」とは当時の成人年齢である20歳を指していました。成人年齢が18歳に引き下げられた現在でも、養子を取ることができるのは20歳からです。

薫の年齢は作中で明確にされていませんが、設定・描写から16~18歳程度とみられます。
つまり、相手が年長者であろうとなかろうと、薫の年齢で養子を取ること自体がまず無理ということになります。

作中の養子縁組シーンは、

①どう見ても20歳未満の薫が養子を取っている
②年長者の丈瑠を養子にしている

という点で、二重の意味で不可能な展開ということですね。

もちろん、番組の制作サイドもそれは分かっており、「法律上の手続きとは関係がない、あくまで私的な家族関係の話」と割り切ってこのエピソードを作ったものと思われます。
法律婚によらない「内縁の夫婦」というものが存在するのと同じく、法律上の養親子関係になれない者同士が、私的に「自分達は親子だ」と宣言するぶんには自由ですからね。

「結婚相手の連れ子」であっても親子関係は生じない

この「薫・丈瑠養子問題」について、稀に「まず丈瑠より歳上の男性が丈瑠を養子にした上で、薫がその男性と婚姻すれば、薫も丈瑠の親になれるのでは」と考える人がいます。

しかし、これは誤解であり、「結婚相手の連れ子」との間に自動的に親子関係が生じることはありません。
よくドラマなどで、親の再婚で「新しいお父さん/お母さんができた」と言っていますが、親の結婚相手と子供は何もしなければ「赤の他人」です。法律上「新しいお父さん/お母さん」になるためには、やはり養子縁組の手続きが必要になります。

では、「丈瑠を養子にした男性」と婚姻した薫は、「結婚相手の連れ子」である丈瑠を養子にすることができるでしょうか。

実は、『シンケンジャー』放送当時の民法では、①未成年者は養子を取れない ②年長者を養子にすることはできない という2つのハードルの内、①は婚姻によってクリアすることができました。
というのも、当時は成人年齢(20歳)と婚姻可能年齢(男性18歳、女性16歳)にズレがあり、20歳未満の者が婚姻をした場合、民法上は成人として扱われる「成年擬制」という制度があったためです。
先述の通り、当時の民法792条は「成年に達した者は、養子をすることができる。」という規定であったため、婚姻により成年とみなされた者も養子を取ることが可能でした。

しかし、民法793条の「尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。」という規定の方は、成年擬制があろうと乗り越えることはできません。
よって、この方法によっても、薫が丈瑠を養子にすることは不可能という結論になります。


法律上「家督を譲る」にはどうすれば良かったのか

ここまで見てきた通り、現行の民法下では、丈瑠を「合法的に」薫の養子にすることはできません。
では、それ以外で薫から丈瑠に「家督を譲る」手段はないのでしょうか。

そもそも「家督」とは戦前までの旧民法に存在した概念であり、現行法にそのような用語はないのですが、敢えて古い考え方を踏襲するなら、「薫が丈瑠と婚姻すればよい」というシンプルな答えになります。

旧民法下でも「女戸主」は認められており、父親の死去などで戸主となっていた女性がそのまま婚姻すると、夫が「入婿」として家督を承継していました。
現代においても、婚姻なら無理なく親族関係を生じさせることができ、薫の名字(氏)や財産を「合法的に」丈瑠に引き継がせることが可能になります。

しかし、多くの人が真っ先に思いつく筋書きでありながら、制作サイドはこの方法を取りませんでした。
「薫と丈瑠の関係を恋愛・男女の方向に持って行きたくない」という意図もさることながら、「時代錯誤な関係性の中で培われる絆」を持ち味とする本作の物語においては、若い女性が歳上を養子にするという荒唐無稽な展開の方が面白いと判断されたためでしょう。


まとめ:「法律上は無理」だからこそ面白い

『シンケンジャー』の薫が歳上の丈瑠を養子にすることは、現実の民法に照らせば絶対に不可能です。
しかし、そのような「法律上は無理」な展開を勢いで通したからこそ、このシーンは今も語り継がれるインパクトを視聴者の心に残したのだとも言えますね。

スーパー戦隊シリーズは現行の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』をもって一旦休止に入るとのことですが、『シンケンジャー』のクライマックスは今後もシリーズの歴史に残る衝撃の展開として語り継がれることでしょう。

(文責:グリーンOnline編集部)

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