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- 成年後見人による使い込みは罪に問われるか
- 成年後見人による使い込みが発覚したときの対処法
- 成年後見人による使い込みを防止する方法
成年後見人とは、認知症や知的障がいなどで判断能力を失った人の代わりに財産管理や契約行為を行う人物です。
成年後見人は判断能力を失った人(被後見人)のために行動するよう定められていますが、残念ながら、成年後見人による財産の使い込みが起きるリスクはゼロではありません。
万が一、成年後見人が被後見人の財産を使い込んだ場合は業務上横領に該当し、刑事罪に問われる恐れがあります。
成年後見人による使い込みが発覚したときは解任申立てや損害賠償請求を起こしましょう。
本記事では、成年後見人による財産の使い込みが発覚したときの対処法や防止方法を紹介します。
目次
1章 成年後見人とは
成年後見人とは、認知症や知的障がいなどで判断能力を失った人の代わりに財産管理や契約行為を行う人物です。
成年後見人には、下記の2種類があります。
- 法定後見人 家庭裁判所に後見人を選任してもらう
- 任意後見人 本人があらかじめ任意後見人を選任し契約を結んでおく
実務上では、法定後見人=成年後見人とされることがほとんどですので、本記事でも次章以降は法定後見人に絞って解説を行います。
2章 成年後見人による使い込みは業務上横領に該当する
成年後見人が被後見人の財産を使い込んだ場合、業務上横領に該当する恐れがあります。
司法書士や弁護士といった専門家が成年後見人に選任された場合のみでなく、家族や親族が成年後見人に選ばれた場合も刑事罰に問われる恐れがあるのでご注意ください。
業務上横領の刑罰は、下記の通りです。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
引用:刑法253条
成年後見人による使い込みが発覚した場合、刑事罰に問われるだけでなく、家族や次の成年後見人から損害賠償請求される可能性もあります。
3章 成年後見人による使い込みが発覚したときの対処法
成年後見人による財産の使い込みが発覚した場合、証拠を集め成年後見人の解任申立てを行えます。
解任後は使い込みに対して損害賠償請求や不当利息返還請求も可能です。
具体的には、使い込みが発覚した後は下記の方法で対処しましょう。
- 成年後見人の解任申立てをする
- 損害賠償請求・不当利得返還請求を起こす
- 成年後見監督人を選任する
- 依頼者見舞金制度を活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 成年後見人の解任申立てをする
成年後見人により財産が使い込まれていた場合などでは、成年後見人の解任申立てが可能です。
ただし、解任申立てが受理されるには家庭裁判所が納得するだけの証拠を集めなければなりません。
成年後見人の解任申立ては家庭裁判所で行う必要があり、手続き方法および必要書類は下記の通りです。
申立てできる人 |
|
申立て先 | 被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
|
3-2 損害賠償請求・不当利得返還請求を起こす
本記事の2章で解説したように、成年後見人による使い込みは業務上横領として刑事罰に問われる可能性があります。
そして、それとは別に被後見人や家族・親族、新たに選ばれた成年後見人が損害賠償請求や不当利得返還請求を起こすことも可能です。
損害賠償請求や不当利得返還請求が認められれば、使い込まれた財産を返還してもらえます。
ただし、損害賠償請求や不当利得返還請求を行う際には成年後見人の解任申立てを行うときと同様に様々な書類の作成や証拠集めをしなければなりません。
被後見人や家族、親族が行うことは現実的ではないので、成年後見制度のトラブルに詳しい弁護士に依頼するのが良いでしょう。
3-3 成年後見監督人を選任する
成年後見人の使い込みが疑われるものの残念ながら証拠が集まらなかった場合は、成年後見監督人を選任してもらうのも良いでしょう。
成年後見監督人とは名前の通り、成年後見人の後見業務を監督する人物です。
成年後見監督人が選ばれれば、成年後見人による使い込みも防止できますし、万が一、財産を使い込まれた場合も発見しやすくなるはずです。
3-4 依頼者見舞金制度を活用する
あってはならないことですが、弁護士が成年後見人として選ばれ、被後見人の財産を使い込まれた場合、依頼者見舞金制度の活用を検討しましょう。
依頼者見舞金制度とは、弁護士が業務上横領をした場合に日本弁護士連合会が被害者に対して見舞金を支給する制度です。
依頼者見舞金制度を活用すれば、最大500万円までの見舞金を受け取れる可能性があります。
依頼者見舞金制度の相談窓口は、成年後見人として選ばれた弁護士が所属している弁護士会ですので、まずはどの弁護士会に相談すれば良いか確認してみましょう。
4章 成年後見人による使い込みを防止する方法
成年後見人による財産の使い込みを防止するには、そもそも成年後見制度を利用しないようにするのが確実でありおすすめです。
成年後見制度は使い込みリスクがあるだけでなく、被後見人が亡くなるまで制度の利用が続く、柔軟な財産管理を行えないなどのデメリットもあるからです。
具体的には、下記にある成年後見制度以外の方法で認知症対策を行うことをおすすめします。
- 家族信託を活用する
- 任意後見制度を活用する
- 後見制度支援信託を行う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 家族信託を活用する
家族信託とは、自分が信頼する家族に財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
家族信託を活用すれば、自分が認知症になり判断能力を失った場合も契約内容にしたがって家族が財産管理をしてくれます。
また、家族信託は成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行えるのが特徴であり、契約内容によっては自宅の売却や賃貸不動産の管理やリフォームなども行えます。
加えて、家族信託には遺言書のように自分が亡くなった後に誰が財産を受け継ぐかも指定できるので、相続対策としての効果も持っているのがメリットです。
一方、家族信託は専門的な知識や経験が必要であり、自分で希望内容や資産に合う契約書を作成し手続きを行うのは現実的ではありません。
そのため、家族信託を検討している段階で、認知症対策や家族信託に精通した司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
すでに認知症の症状が進行しており判断能力を失っている人は、家族信託を利用できません。
認知症になり判断能力を失っている場合は成年後見制度でしか財産管理を行えないのでご注意ください。
一方、認知症の症状が軽く判断能力が残っているとされれば家族信託や後述する任意後見制度を活用できる可能性も残されています。
家族信託が利用できるかはケースバイケースですので、認知症かも?最近物忘れが激しくなってきたなどの兆候がある場合は、できるだけ早く司法書士や弁護士に相談することを強くおすすめします。
4-2 任意後見制度を活用する
任意後見制度を活用すれば成年後見制度と異なり後見人になる人物を自分で選べます。
信頼できる家族や親族を後見人にすることもできますし、司法書士や弁護士に後見人になってもらうこともできるので、使い込みリスクを下げられるでしょう。
また、任意後見制度では後見人になってくれる人物のみでなく、後見内容も自分である程度自由に決められます。
そのため、成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行いたいと考えている場合は、任意後見制度の活用をおすすめします。
ただし、任意後見制度も家族信託と同様に、すでに重度の認知症であり判断能力を失っている人は利用できないのでご注意ください。
認知症の症状が進行してからでは選択肢が限られてしまうので、まだ早いと思っていても元気なうちに認知症対策や相続対策を行うことを強くおすすめします。
4-3 後見制度支援信託を行う
後見制度支援信託を行えば、成年後見人が管理する財産を減らせるので使い込みリスクを軽減可能です。
後見制度支援信託とは、成年後見人が被後見人の生活費を管理し、残りの資産については信託銀行に預け管理してもらう制度です。
信託銀行に預け入れたお金を引き出す場合や口座自体を解約するには、成年後見人が単独で行うことはできず家庭裁判所に許可を得る必要があります。
信託銀行に預け入れたお金は成年後見人による使い込みが難しくなりますし、元本保証もしてもらえるので低リスクで預け入れ、管理をしてもらえます。
まとめ
成年後見人による財産の使い込みは業務上横領として刑事罰に問われる恐れがありますし、家族や親族から損害賠償請求や不当利得返還請求を起こされる可能性があります。
万が一、成年後見人による財産の使い込みが疑われる場合は証拠を集め、解任申立てや訴訟を行いましょう。
また、成年後見人による財産の使い込みを防止するには、そもそも成年後見制度の利用を避け、元気なうちから認知症対策しておくことが肝心です。
例えば、家族信託や任意後見制度であれば、財産を管理してくれる人物を自分で選べるので、信頼できる人物に任せられます。
認知症対策には複数あり、資産や家族の状況、本人の希望によって選択すべき制度は異なります。
どの制度が合うかわからない場合やすでに認知症かも?と思われる症状があらわれており、急を要する場合は司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、認知症対策についての相談をお受けしています。
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