- 認知症になり判断能力を失った相続人は相続放棄できるか
- 成年後見人が被後見人の相続放棄をする際の注意点
- 成年後見人と被後見人が利益相反となったときの対処法
認知症になり判断能力を失ってしまうと、相続放棄の手続きを自分で行えなくなってしまいます。
認知症になり判断能力を失った人が相続人になったものの亡くなった人が多額の借金を遺していたケースなどは、成年後見人を選任して相続放棄の手続きを行ってもらう必要があります。
なお、成年後見人はあくまでも被後見人の利益のために行動するため、他の相続人の取り分を多くするなどの目的で相続放棄することは認められません。
亡くなった人が多額の借金をしており、相続放棄をしないと被後見人が損をしてしまうケースなどでのみ相続放棄が認められると理解しておきましょう。
本記事では、成年後見人が被後見人の代わりに相続放棄をする際の注意点を解説します。
成年後見制度については、下記の記事で詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
目次
1章 認知症になった相続人の相続放棄には成年後見人の選任が必要
認知症になると判断能力を失うため、認知症の人が相続人になると遺産分割協議への参加や相続放棄を自分ですることができません。
そのため、亡くなった人が多額の借金を遺しており相続放棄した方が良いケースでは、成年後見人を申立て相続放棄の手続きを代わりにしてもらう必要があります。
成年後見人とは、認知症や知的障がいなどで判断能力を失った人の代わりに法律行為や財産管理を行う人物です。
そのため、認知症になった相続人が相続放棄をする場合は、成年後見人の選任が必要であると理解しておきましょう。
2章 成年後見人が相続放棄の手続きをする際の4つの注意点
成年後見人を選任すれば、認知症になり判断能力を失った相続人も相続放棄することが可能です。
ただし、成年後見人が被後見人の代わりに相続放棄をする際には、下記の点に注意しなければなりません。
- 相続放棄の期限は「成年後見人が相続開始を知ったときから3ヶ月以内」である
- 被後見人の不利益となる相続放棄は認められない
- 成年後見人が相続放棄する際には家庭裁判所への報告が必要である
- 家族・親族が成年後見人の場合は利益相反に該当する恐れがある
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 相続放棄の期限は「成年後見人が相続開始を知ったときから3ヶ月以内」である
相続放棄は「自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に手続きをしなければならない」と期限が設定されています。
ただし、相続人が認知症で判断能力を失っており成年後見人を選任する場合、相続放棄の期限は「成年後見人が相続開始を知ったとき・成年後見人が選任されたときから3ヶ月以内」となるのでご安心ください。
成年後見人の申立て手続きには数ヶ月から半年かかってしまうケースも多いです。
しかし、成年後見人の申立てに時間がかかり相続発生から3ヶ月を過ぎてしまっても、相続放棄の期限を過ぎることはないのでご安心ください。
2-2 被後見人の不利益となる相続放棄は認められない
成年後見人であっても、被後見人の不利益につながる相続放棄は認めてもらえないのでご注意ください。
成年後見人は被後見人の利益のために行動しなければならないと決められているからです。
また、成年後見人は被後見人の財産管理や法律行為を自由に行えるのではなく、年に1回、家庭裁判所にて定期報告をする必要があります。
被後見人の不利益につながる相続放棄をしてしまうと、家庭裁判所への報告の際に問題となり責任を追及されて成年後見人を解任させられる恐れもあるのでご注意ください。
加えて、成年後見人を解任され、新しい成年後見人が選ばれた場合、新しい成年後見人から相続放棄してしまった遺産について損害賠償請求してくる可能性もあります。
例えば、下記の理由による相続放棄は、被後見人の不利益につながるとされ認められない可能性が高いです。
- 成年後見人が遺産分割協議に参加するのが手間だと感じたため
- 他の相続人の遺産の取り分を増やすため
- 成年後見人が被後見人が取得した遺産を適切に管理することが手間だと感じたため
被後見人の相続放棄が認められるのは、亡くなった人に多額の借金がある場合など、相続放棄をしない方が損をする可能性が高い場合のみと考えておきましょう。
2-3 成年後見人が相続放棄する際には家庭裁判所への報告が必要である
成年後見人が被後見人の代わりに相続放棄をする際には、家庭裁判所への報告が必要です。
成年後見人は年に1回、家庭裁判所に後見内容を報告する必要があるので、その際に相続放棄や被後見人の遺産の取り扱いを報告しなければなりません。
万が一、報告をしなかった場合、成年後見人として責任を追及される恐れもあるのでご注意ください。
2-4 家族・親族が成年後見人の場合は利益相反に該当する恐れがある
成年後見人が家族や親族の場合、利益相反になってしまい、そもそも成年後見人では相続放棄の申立てを行えない場合があります。
利益相反とは、成年後見人と被後見人の利益が対立してしまうケースです。
具体的には、成年後見人と被後見人の双方が相続人となっている場合、利益相反となってしまうので成年後見人は被後見人の相続放棄をすることができません。
具体例を見てみましょう。
上記のように、認知症になり判断能力を失った父の成年後見人に長男がなっている場合、父親と長男は利益相反に該当します。
成年後見人として長男が被後見人である父親の相続放棄をしてしまうと、長男がすべての遺産を相続することになってしまいます。
被後見人の相続放棄が成年後見人の利益につながってしまう可能性があるので、このようなケースでは特別代理人や成年後見監督人に代わりに相続放棄の手続きをしてもらわなければなりません。
利益相反となり、成年後見人が相続放棄できないときの対処法は、次の章で詳しく解説していきます。
3章 利益相反となり成年後見人が相続放棄できない場合の対処法
本記事の2章で解説しましたが、利益相反となった場合、成年後見人では被後見人の相続放棄をすることができません。
利益相反となった場合、下記の方法で認知症になり判断能力を失った相続人の相続放棄をする必要があります。
- 成年後見人が相続放棄をしてから被後見人の相続放棄をする
- 成年後見監督人に相続放棄の手続きをしてもらう
- 特別代理人を選任し相続放棄の手続きをしてもらう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 成年後見人が相続放棄をしてから被後見人の相続放棄をする
亡くなった人に多額の借金があり、相続人全員が相続放棄したケースでは、相続放棄の順番に気を付ければ成年後見人が被後見人の相続放棄の手続きを行えます。
成年後見人も被後見人もそれぞれ相続放棄したい場合は、下記の順番で相続放棄の申立てを行いましょう。
- 成年後見人
- 被後見人
成年後見人が先に相続放棄をすれば、成年後見人は最初から相続人ではなかった扱いとなります。
したがって、利益相反にはあたらないので、被後見人の相続放棄も問題なく手続き可能です。
もしくは、成年後見人と被後見人が同時に相続放棄の手続きをする場合も、利益相反にはあたらないと判断されます。
3-2 成年後見監督人に相続放棄の手続きをしてもらう
成年後見監督人がいる場合は、成年後見人の代わりに相続放棄の申立てをしてもらうことも可能です。
成年後見監督人とは、成年後見人の後見業務の内容に問題がないか監視する人物です。
ただし、成年後見監督人はすべてのケースで選任されているわけではないので、成年後見監督人がいない場合は後述する特別代理人の選任を検討しなければなりません。
3-3 特別代理人を選任し相続放棄の手続きをしてもらう
成年後見監督人がいない場合でも、特別代理人を選任すれば成年後見人の代わりに被後見人の相続放棄を行ってもらえます。
特別代理人とは、成年後見人と被後見人が利益相反になるときに選任される人物であり、遺産分割協議や相続放棄などの相続手続きを行います。
特別代理人は司法書士や弁護士などの専門家である必要はなく、利益相反にならない人物であれば誰でもなることが可能です。
そのため、相続人になっていない親族(兄弟姉妹、いとこ)などが特別代理人の候補者になるケースが多いです。
特別代理人を選任する際には家庭裁判所に申立てる必要があり、手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
申立てできる人 | 親権者 利害関係者(相続人など) |
申立先 | 未成年者や被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 | 収入印紙:800円分 連絡用の郵便切手代:数千円程度 |
必要書類 |
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まとめ
認知症になり判断能力を失った人が相続放棄する場合、成年後見人を選任し被後見人の代わりに手続きしてもらう必要があります。
なお、成年後見人が相続放棄する場合、被後見人の不利益となる相続放棄は認められないのでご注意ください。
また、成年後見人が家族や親族の場合、被後見人と利益相反になり、成年後見人では相続放棄できない恐れもあります。
その場合は、成年後見人と被後見人が同時に相続放棄の手続きをする、特別代理人を選任するなどの対処をしなければなりません。
認知症になり判断能力を失った相続人がいる場合、遺産分割協議や相続放棄を自分で行えず、手続きに時間がかかる場合があります。
何から始めて良いかわからない場合や平日日中は仕事をしていて手続きが進まない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
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