家族が認知症を発症すると、成年後見制度の利用を求められる場合があります。
成年後見制度とは、認知症等で判断能力を失った人のかわりに後見人が財産管理や法的手続きを行う制度です。
しかし、成年後見人になるのは負担が大きく、家族の中で候補者がいないなどの理由で制度の利用に乗り気でない場合もあるでしょう。
認知症になったからといって、成年後見制度を必ずしも利用しないといけない訳ではありません。
さらに、認知症の進行具合によっては、家族信託や任意後見制度、生前贈与といった成年後見制度以外の方法を取れる可能性もあります。
本記事では、認知症の症状別に成年後見制度を利用しない方法を解説していきます。
目次
1章 成年後見制度の開始理由の6割以上が認知症
認知症になって判断能力を失った人の財産管理や法的手続きを行うには、成年後見制度が一般的です。
上記のように、成年後見制度の開始理由の63.2%が認知症となっています。
ただし、成年後見制度は家族信託や任意後見制度と比較して柔軟な財産管理を行えないなどのデメリットもあります。
そのため「認知症と診断されたから成年後見制度しか選択肢がない」と考えるのではなく、家族信託や任意後見制度は本当に利用できないかなどを確認してみると良いでしょう。
認知症対策はいくつか方法があるので、自分に合った方法を選択するためにも相続対策や認知症問題に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
次の章では、軽度の認知症の人が成年後見制度以外で財産管理や相続対策を行う方法を紹介します。
2章 軽度の認知症の人が成年後見制度を利用しない方法
「物忘れが少しある気がする」などのように、軽度の認知症であれば成年後見制度以外の選択も可能な場合があります。
成年後見制度を利用しない方法は、家族信託や任意後見制度、生前贈与など下記の3つの方法があります。
- 家族信託を活用する
- 任意後見制度を活用する
- 生前贈与を活用する
それぞれの方法を詳しく解説していきます。
2-1 家族信託を活用する
家族信託とは、認知症の症状が進行する前に家族間で信託契約を結び、財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
家族信託は成年後見制度よりも、財産管理の自由度が高いのがメリットです。
成年後見制度では難しい自宅のリフォームや売却も、家族信託の契約内容によっては実行できます。
一方で家族信託は財産の管理や運用、処分に特化した制度であり、介護施設との契約や年金の手続きなど、身の上の看護までサポートすることはできません。
2-2 任意後見制度を活用する
認知症をまだ発症していない、症状が軽度である場合には、成年後見制度ではなく任意後見制度も利用可能です。
任意後見制度では、本人が希望する人物を任意後見人として指定できます。
後見人を専門家に依頼する必要がなく、家族や親族などに依頼できる点が魅力といえるでしょう。
また、後見人にお願いしたい内容についても、ある程度自由に設定できます。
2-3 生前贈与を活用する
生前贈与を活用すれば、財産の所有権自体が親から子供に移せるので、手っ取り早く資産凍結が防げます。
親が認知症になってしまったとしても、生前贈与された財産を子供が自分の意思で自由に管理や運用、処分できるからです。
生前贈与も認知症の症状が軽度であり、判断能力があるうちに利用できる制度です。
ただし、年間110万円を超える贈与を行った場合には、原則として贈与を受けた側に贈与税がかかりるので、贈与税の特例や控除制度を上手に利用して行う必要があります。
3章 重度の認知症の人が成年後見制度を利用しない方法
すでに重度の認知症であり判断能力が著しく低下している場合は、先述した家族信託等の利用が難しいので、成年後見制度以外の選択肢が少ないともいえるでしょう。
しかしだからといって、必ず成年後見制度を利用しなければならないわけではありません。
極端な話ですが、「認知症になった親の財産を手付かずにしておく」、「親が法的手続きや契約行為を行う機会を作らない」で日常生活に問題がないのであれば成年後見制度は必要ありません。
具体的に確認していきましょう。
3-1 入院費や生活費は家族が立て替えておく
認知症になった親の入院費や生活費を子供が立て替えておけるのであれば、成年後見制度を利用しなくてすむ場合もあります。
認知症になり判断能力を失うと、口座の不正利用や家族による預貯金の使い込みを防ぐために、銀行口座が凍結されてしまいます。
銀行口座が凍結されてしまい認知症になった親自身の預金を引き出せなくなっても困らないのであれば、今すぐに成年後見制度を利用する必要性が低いともいえるでしょう。
なお、認知症患者のかわりに立て替えておいた入院費や生活費は、相続発生後に精算するため支払い記録や領収書を保管しておきましょう。
3-2 後見人が必要になる手続きや契約は行わない
成年後見制度の利用が必要になるケースとして、老人ホームへの入居手続きや認知症になった人の自宅の売却手続きなどが考えられます。
老人ホームでは「認知症になった人との契約は、子供か成年後見人に行ってもらうこと」をルールを定めている施設もあり、子供がいない又は協力くれないケースだと入居ができないことがあります。また、認知症で判断能力が著しく低下していれば、不動産売却などの契約は無効になるため法律上行うことができません。
このように、成年後見人でないと行えない手続きや契約をしないのであれば、無理に成年後見制度を利用しなくてすむ場合もあります。
具体的には、以下の選択をするのであれば成年後見人が必要ないでしょう。
- 老人ホームへは入居しないで自宅で介護をする
- 後見人ではなく子供が入居手続きを行える老人ホームに入居する
- 認知症になった親の自宅は売却せず亡くなるまで置いておく
成年後見制度は、あくまでも認知症患者のかわりに財産管理や契約行為を行うときに必要になってくる制度です。
ここまで解説してきたように、成年後見制度はすべての認知症高齢者が利用する制度ではありません。
しかし、認知症は発症してから数年から十数年続くケースが多く、発症後の平均生存年数は5~12年という結果も出ています。
そのため、家族は長期的な目線で様々な事態を想定しておくのが良いでしょう。
例えば、以下の事態が発生する恐れもあります。
- 介護や入院が長引けば、実家を売却しないと費用が足らなくなる可能性がある
- 本人が相続人の1人になってしまい遺産分割協議できない可能性ある
(父が亡くなったとき、認知症になっている母など) - アパートや駐車場などの貸借人と法的トラブルになる可能性がある
- ATMで指紋認証が導入され、家族がキャッシュカードで預金を引き出せなくなる
長期的な視点やリスクを確認しておきたい方は、手遅れになる前に専門家に相談しておくのがおすすめです。
まとめ
成年後見制度は、認知症等で判断能力を失った人のかわりに、後見人が財産管理や法的手続き、契約行為を行う制度です。
そのため、認知症になった人の財産が凍結されても問題ない場合や法的行為を行う必要がない場合には、必ずしも成年後見制度を利用する必要はありません。
ただし、認知症は発症してから数年から数十年以上続くケースが多く、発症後の平均生存年数は5~12年という結果も出ています。
今の段階で、成年後見制度が必要ないと判断しても将来的には必要になる可能性もあるでしょう。
認知症患者の家族は、現時点だけでなく長期的な視野を持って制度の利用を検討することが大切です。
成年後見制度を利用すべきかわからない、と悩んでしまうときには、司法書士や弁護士等の専門家に相談してみるのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、成年後見制度を始めとした認知症対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
成年後見制度のデメリットとは?
成年後見制度を利用するデメリットは、「手間がかかる」「柔軟な対応が難しくなる」「報酬が発生するので費用がかかる」などがあげられます。
成年後見人はどんな人がなるの?
成年後見人になるために特に資格は必要ありません。
欠格事由(成年後見人になれない要件)に該当していなければ誰でもなることは可能です。
ただし、法定後見人の場合は、家庭裁判所が後見人を選定するので、希望した人が選任されるとは限りません。
成年後見人の欠格事由など、詳しくは下記リンク先で解説しておりますので、ご参考にしてください。
▶成年後見人になれる人、なれない人成年後見制度を利用しない方法はある?
成年後見制度を利用しない方法は、主に下記の通りです。
・家族信託を活用する
・任意後見制度を活用する
・生前贈与を活用する
・入院費や生活費は家族が立て替えておく
・後見人が必要になる手続きや契約は行わない成年後見制度を利用しないとどうなる?
認知症になり判断能力を失うと、財産管理を行えなくなり、下記のリスクが生じます。
・銀行口座が凍結されてしまう
・自宅の売却や不動産の活用ができなくなる
・相続対策ができなくなる
・詐欺に巻き込まれるリスクがある
▶認知症の人の財産管理について詳しくはコチラ成年後見制度の申立て費用はいくら?
成年後見制度を申立てる際には申立て費用や書類の収集費用などがかかり、合計6万~47万円程度かかります。
▶成年後見制度の申立て費用について詳しくはコチラ成年後見制度にかかる月額報酬はいくら?
成年後見人に司法書士や弁護士などの専門家が就いた場合は、月額2~6万円の費用がかかります。
財産額が5,000万円を超える場合は、基本報酬額が更に高額になります。成年後見人を途中で辞めたい場合はどうすればいい?
成年後見制度は原則として途中でやめることは認められず、被後見人が死亡するまで後見人業務は続きます。
なお、後見人が不祥事を起こした、病気など業務を続けられない事情が発生した場合、後見人を変更することは可能です。