遺産分割協議書は、相続人全員による署名および押印が必要です。
遺産分割協議への署名および押印は話し合いの内容に同意した証拠となるため、原則として代筆は認められません。
従って、代筆により作成された遺産分割協議書は無効になる恐れがありますし、私文書偽造などの犯罪にあたる恐れもあるのでご注意ください。
残念ですが、相続人の一部の人が認知症などで判断能力を失っている場合は、遺産分割協議を行えず残りの相続人にまで負担がかかる可能性があります。
その場合には、残りの相続人に代筆で遺産分割協議書を作成させるのではなく、遺言書を作成しておき遺産分割協議を行わなくてすむようにするなどの対策が有効です。
本記事では、遺産分割協議書で代筆は認められるのか、代筆により生じるリスクを解説します。
遺産分割協議については、下記の記事で詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割協議書の代筆は原則として認められない
遺産分割協議書には、相続人全員で署名と押印をしなければなりません。
原則として署名は代筆ではなく、自著で行うとされています。
遺産分割協議書の署名は、記載されている内容に合意していることを証明するためのものだからです。
代筆が無条件で認められてしまうと、相続人の1人が遺産分割協議書を偽装できてしまいます。
そのため、本人の了承がなく代筆された遺産分割協議書は無効になってしまいますし、悪質な場合は私文書偽造などの罪に問われる恐れもあります。
また、トラブルを避けるため金融機関などが代筆された遺産分割協議書では故人の預貯金解約などの手続きに応じてくれない可能性が高いです。
1-1 遺産分割協議書の代筆が認められるケース
遺産分割協議書の代筆はすべてのケースで禁止されているわけではなく、相続人が代筆を行うことに完全に同意している場合は有効です。
例えば意識はハッキリしているものの病気の後遺症で手先が不自由な場合などは、相続人が同意していれば代筆も認められます。
ただし遺産分割協議書の提出先によっては、リスクを避けるために代筆で作成された遺産分割協議書を一律拒否する恐れもあります。
例えば金融機関などは、遺産分割協議書の署名が代筆だとわかった時点で提出を認めない可能性も十分にあるでしょう。
なお相続人の1人が認知症で判断能力を失っているため、遺産分割協議書を代筆することは認められません。
認知症で判断能力を失っている人は法的手続きを行えないため、そもそも遺産分割協議にも参加できないからです。
2章 代筆された遺産分割協議書の取り扱い
遺産分割協議書の代筆は状況によっては認められる可能性がありますが、代筆の理由によっては無効になるリスクや私文書偽造にあたる恐れがあるなど扱いに注意しなければなりません。
代筆された遺産分割協議書の取り扱いで、意識しておくべきなのは下記の3点です。
- 無効になり相続手続きには使用できない可能性がある
- 私文書偽造の犯罪にあたる可能性がある
- 公正証書原本不実記載罪の犯罪にあたる可能性がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 無効になり相続手続きには使用できない可能性がある
遺産分割協議書の代筆理由が偽造もしくは認知症などで相続人の1人に判断能力がなかった場合は、遺産分割協議書は無効になります。
当たり前ですが、無効となった遺産分割協議書は相続手続きに用いることはできません。
2-2 私文書偽造の犯罪にあたる可能性がある
遺産分割協議書は契約書と同様に私文書のひとつです。
したがって、偽造目的で遺産分割協議書を代筆で作成すると「私文書偽造」にあたり、3ヶ月以上5年以下の懲役となる恐れがあります。
2-3 公正証書原本不実記載罪の犯罪にあたる可能性がある
代筆により偽造した遺産分割協議書を使用して不動産の名義変更手続きを行うと、「公正証書原本不実記載罪」という罪に問われる恐れがあります。
公正証書原本不実記載罪とは、登記簿や戸籍などに虚偽の記載をさせた場合に問われる罪です。
公正証書原本不実記載罪とされた場合は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
3章 遺産分割協議書の代筆がバレる原因
「金融機関や法務局の担当者は遺産分割協議書の代筆に気付かないだろう」と考える人も中にはいるかもしれません。
しかし、金融機関や法務局は遺産分割協議書の代筆リスクを把握しています。
特に、金融機関に関しては口座名義人だけでなく相続人の状況を把握しているケースも多いです。
下記のケースに該当する場合、提出先の金融機関などに遺産分割協議書の代筆がバレやすいのでご注意ください。
- 相続人に認知症の人が含まれるのにもかかわらず、署名されているケース
- 署名の筆跡が明らかに本人と異なるケース
- 相続人全員の署名の筆跡が明らかに似通っているケース
- 海外に住む相続人がいるにもかかわらず、遺産分割協議書の署名が短時間で用意できたケース
4章 遺産分割協議書に押印・署名できない人がいる場合の対処法
何らかの理由で遺産分割協議書に押印、署名できない人がいる場合は、成年後見制度の申立てや遺産分割協議書の代筆を認めてもらうことを検討しましょう。
家族や親族の中に認知症の人がいて相続人として遺産分割協議に参加するのが難しい場合は、遺言書を作成しておくと相続人の負担を減らせます。
遺産分割協議書に押印、署名できない相続人がいる場合の対処法を詳しく見ていきましょう。
4-1 成年後見制度の申立てをする
認知症などで判断能力を失った人が相続人になった場合、遺産分割協議に参加することができず、残りの相続人も相続手続きを進められなくなってしまいます。
認知症の人が相続人になったときには、成年後見制度の申立てを行わなければなりません。
成年後見制度とは、認知症や知的障害の人の代わりに財産管理や法的手続きを行う制度です。
成年後見人を用意すれば、認知症になった人の代わりに遺産分割協議に参加してもらえます。
ただし、成年後見制度の申立ては必要書類も多く、申立てに3ヶ月以上かかる可能性もあります。
相続発生後に成年後見制度の申立てを行うと手続きに時間がかかり、相続税の申告などに間に合わない恐れもあるのでご注意ください。
認知症の人が相続人になりそうとわかっているケースでは4-3で紹介する遺言書の作成などの相続対策をしておくのが良いでしょう。
4-2 遺産分割協議書の代筆を認めてもらう
本記事で解説したように、遺産分割協議書への代筆は原則として認められませんが、すべてのケースで禁止されているわけではありません。
身体麻痺などで署名が難しい人が相続人になった場合は、代筆が認められる可能性があります。
遺産分割協議書の代筆を認めてほしい場合は、残りの相続人や遺産分割協議書の提出先などに相談しておくことが大切です。
4-3 遺言書を作成しておく
家族が認知症を発症しており、相続が発生したときに遺産分割協議に参加できないと予想される場合は、遺言書の作成などの相続対策をしておきましょう。
遺言書を作成しておけば、自分が指定した方法で遺産分割を行ってもらえるため、相続人が遺産分割協議を行う必要はありません。
遺言書を作成すれば、希望の人物に財産を受け継いでもらえる、相続人の手間や負担を減らせるなどのメリットもあるのでぜひご検討ください。
遺言書を作成する際には、あわせて遺言執行者も指定しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ人物です。
遺言執行者を指定しておけば、相続人ではなく遺言執行者が単独で不動産の登記申請や預貯金の払い戻しなどの手続きを行えます。
認知症の人が相続人になりそうなときは、相続手続きを行えない可能性も踏まえ、遺言執行者を指定しておくと安心です。
遺言執行者は相続人を指定することもできますが、相続人の負担を減らしたい、遺言内容を確実に実行してほしい場合は相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼するのが良いでしょう。
4-4 家族信託をしておく
家族が認知症を発症していて遺産分割協議への参加が難しい場合は、家族信託を行っておくのも相続対策として有効です。
家族信託とは、信頼できる家族に財産の運用や管理、処分を任せる制度です。
家族信託では、自分が亡くなった後に財産を受け継ぐ人物を指定できるため、遺産分割協議を行わずにすみます。
加えて、家族信託なら財産の所有者本人が認知症になったときの対策も可能です。
家族信託は他の制度と比較し柔軟な財産管理を行えるため、認知症対策や相続対策としておすすめです。
ただし、家族信託の手続きや契約書の作成は複雑であり専門的な知識が必要なため、自分で行うのではなく家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
遺産分割協議書は相続人全員で署名と押印をする必要があり、原則として代筆は認められません。
しかし、すべてのケースで代筆が認められないわけではなく、署名できない相続人が遺産分割協議の内容に同意しているのであれば代筆が認められる可能性があります。
代筆が認められるかは相続人の状況や遺産分割協議書の提出先によっても異なるため、事前によく確認をしておきましょう。
また、認知症の人が相続人になったときは遺産分割協議に参加できないので、あらかじめ遺言書を作成し遺言執行者を指定しておくのがおすすめです。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、遺言書の作成から遺言執行者まで一括で依頼できます。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成や遺言執行者をはじめとする様々な相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
遺産分割協議書の代筆は可能?
遺産分割協議書は相続人全員が遺産分割の内容に合意したことを証明するものであり、相続人全員の押印・署名が必要です。
また、原則として遺産分割協議書の代筆も認められません。