相続放棄の手続きをしたものの、「やっぱり気が変わって相続放棄を取消したい!」というのは可能なのでしょうか?
この記事では、相続放棄後に撤回・取消ができるのか、可能な場合と不可能な場合についてそれぞれ解説していきます。
被相続人(亡くなった方)の遺産を相続するかどうか迷っている方、相続放棄の取消を考えている方は参考にしてみてください。
目次
1章 相続放棄の受理後は原則取消できない
結論から言うと、相続放棄の申請が裁判所に受理された場合は原則として取消することができません。
ですが、必ず取消が認められないわけではありません。取消・撤回ができない場合と取消が可能な場合があります。
ここからは、その違いについて見ていきましょう。
1-1 取消・撤回ができないケース
取消・撤回ができないケースとしては、
- 遺産配分や話し合いが面倒で自分から辞退したけれど気が変わった
- 実は財産があるのが判明したから相続放棄を取消したい
- 借金もあったが財産の方が多かったから相続放棄を取消したい
など、自分の思い込みや自己都合が原因で取消を行う場合です。
一旦、相続放棄して他の人たちで遺産分配を行った後に「やっぱり取消したから財産を分けて欲しい!」となると多くの人たちの混乱を招きます。また1から財産分与や名義変更をやり直すことになるため、そう簡単には取消することができません。
「借金があったら嫌だから、取り敢えず相続放棄して後から財産が見つかったら取り消せばいいや」ということはできないので注意しましょう。
1-2 相続放棄の手続きが裁判所の受理前なら取消が可能!
ただし、相続放棄の手続きを行っても、裁判所が受理する前であれば取消は可能です。
相続放棄の申立てをしても、即日受理されるわけではなく、1〜2週間後に相続放棄照会書・回答書が届きます。その届いた相続放棄照会書・回答書を返送してから5~7日前後で受理となります。
ですので、相続放棄の申立てからおおよそ14~20日前後の猶予があります。しかし、相続放棄照会書・回答書を既に返送している場合、受理されるのは時間の問題と言えるでしょう。
「やっぱり取消したい」と思ったら、一刻も早く家庭裁判所に連絡しましょう。
2章 相続放棄の受理後に取消できるケース6つ
もし、相続放棄が受理されてしまった後でも、一定の事情があれば取消ができるケースもあります。
ここからは、相続放棄の受理後に取消できる6つのケースを見てみましょう。
- 未成年者が勝手に相続放棄した場合
- 相続放棄させようと嘘の情報を伝えられた場合
- 勝手に相続放棄の手続きが行われていた場合
- 相続放棄するように脅迫された場合
- 知的障害や認知症などで判断能力がない人が相続放棄した場合
- 弁護士の同意なしで後見人・被後見人が相続放棄した場合
①未成年者が勝手に相続放棄した場合
義姉が亡妻の代わりに相続人となる私の子どもに義父の遺産相続を辞退するか聞いて、子どもがよく分からず承諾してしまった。
未成年者が勝手に相続放棄の意思を伝えた場合、相続放棄の取消が有効になります。
仮に、未成年者に書類を書かせて家庭裁判所まで持っていったとしても、相続放棄を行ったのが未成年と発覚した時点で受理されることはありません。なぜなら、未成年者が相続放棄するときは、法定代理人である「親から申し立て」する必要があるからです。
もし「子どもが辞退すると言っている」と第三者に言われたとしても、相続する権利は残っているのでご安心ください。
②相続放棄させようと嘘の情報を伝えられた場合
亡くなった兄は多額の借金があると言われたので相続放棄したが、実は親戚の嘘で本当は財産がたくさんあった。
相続の対象になっている人物が嘘を言って相手に相続放棄させようとした場合、相続放棄の取消が有効になります。
わざと相続放棄したくなるような嘘の情報を言うことで、相続放棄への適切な判断ができなかったと見なされるので受理された後も取消が可能です。ただし、自ら財産を調べることを怠ったと判断されるケースでは、取消できない場合もあるので、自身でしっかりと確認判断することが大切です。
③勝手に相続放棄の手続きが行われていた場合
相続するつもりだったが、親が勝手に自分が相続放棄するよう手続きを行っていた。
自分は相続放棄の意思がなかったにもかかわらず、自分の名前や印鑑を使って相続放棄の手続きが行われていた場合は取消が有効になります。
④相続放棄するように脅迫された場合
親の遺産を相続放棄しなかったら家族を酷い目に遭わせると親戚に脅されたので、泣く泣く相続放棄することにした。
第三者から相続放棄するように脅迫された場合は取消が可能です。
こちらも、相続放棄させようと嘘の情報を伝えられた場合と同じく、相続することによって自分が不利な状況になると思わせて辞退させる行為なので、取消が可能になります。
⑤知的障がいや認知症などで判断能力がない人が相続放棄した場合
知的障がいを持った弟が、兄弟全員相続放棄するかどうか聞かれたので、承諾してしまった。
知的障がいを持っていたり認知症など十分な判断能力がない方が相続放棄をした場合、相続放棄の取消が可能です。
最終的に相続対象の方々で遺産が分配される点から、判断能力がない方が多く遺産をもらえる場合などにそういったトラブルが起こりやすいので注意が必要です。
⑥裁判所の同意なしで後見人・被後見人が相続放棄した場合
認知症を患っている祖母と後見人が勝手に相続放棄の手続きを進めていた。
判断能力がない方(被後見人)だけでなく、後見人が裁判所や後見監督人の同意なしで相続放棄を行った場合も、相続放棄の取消の対象になります。
判断能力がない方の代わりに後見人(法律行為・事実行為のサポートを行う人のこと)が代わりに相続放棄の手続きを進めることは可能ですが、裁判所や後見監督人の同意なしで相続放棄を行うと取消される可能性があります。
3章 相続放棄するか迷っている人は「期限の延長」をしよう
ここまで読んで「相続放棄するかどうか迷ってきた」という方は「期限の延長」をするのも1つの方法です。
相続放棄ができる期間は3ヶ月ですが、すぐに判断できない場合は、家庭裁判所に申立てをすることで3~6ヶ月程度の期限の延長が可能です。
遺産や借金の調査など、延長するに相当な理由を明確にし、家庭裁判所に認めてもらう必要があります。
期限が迫っていると思い焦って相続放棄して、後から「財産が見つかったからやっぱり取消したい」ということにならないよう、調査に時間がかかりそうだと思った段階で、余裕を持って延長の手続きするのをおすすめします。
相続放棄の期限を延長する際の手続きは、亡くなられた方の最後の住所地の管轄の家庭裁判所に申立てをします。申立ての受付け後、延長を認めるかどうかの判断が、約1週間から2週間で家庭裁判所から出ます。
相続放棄の期間の延長方法については以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
3-1 取消期間は期限があるので注意
相続放棄の取消期間は、『追認をすることができる時から6か月』もしくは『相続放棄が受理された時から10年以内』です。
前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
相続放棄を取消したい場合は、期限内に相続放棄取消申述書などの必要書類を揃えて家庭裁判所に提出しましょう。
4章 取消するか迷ったら専門家へご相談を!
一回は相続放棄したものの、やっぱり相続放棄を取消したいと思っても、取消できるケースに当てはまらない限りは難しいでしょう。
期限があるからと言って、焦って相続放棄を選んで損をしてしまった…ということがないよう、期限の延長も検討しながら財産の調査をもれなくおこないましょう。
「この場合って取消できるの?」「もしかしたら相続放棄しないようが得?」など、相続放棄に迷ったらぜひ無料相談のお問い合わせください。
よくあるご質問
相続放棄を無効にするにはどうすればいいですか?
相続放棄の申立てが受理された後は、原則として取り消しできません。
一方で、相続放棄の手続きを行っても、裁判所が受理する前であれば取消は可能です。相続放棄ができなくなるケースとは?
相続財産を受け取り使用する行為は単純承認とみなされ、相続放棄が認められなくなってしまいます。
自己判断で遺産を使用、処分することはやめましょう。