成年後見人と任意後見人の違い
成年後見人も任意後見人も、認知症などで判断能力を失った人の財産管理や契約行為をサポートする人物です。
しかし、成年後見人は家庭裁判所が選任するのに対し、任意後見人はサポートを受ける人物があらかじめ後見人になる人物を決められるなどの違いがあります。
任意後見人であれば家族や親族などを後見人に選べますし、契約内容も自分で決められるので自由度が高いメリットがあります。
ただし、すでに認知症になり判断能力を失っている人は成年後見制度しか利用できません。
判断能力が残っていれば任意後見制度を含め、様々な認知症対策を行えます。
物忘れが激しくなってきており認知症の疑いがある場合は、できるだけ早く認知症対策に精通した司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
本記事では、任意後見人と成年後見人の違いを解説します。
目次
1章 成年後見人と任意後見人の4つの違い
成年後見人と任意後見人は、認知症などで判断能力を失った人の財産管理や契約行為をサポートする人物という点では共通していますが、それぞれ下記の違いがあります。
成年後見人 | 任意後見人 | |
後見人を自分で決められるか | 家庭裁判所が選ぶ | 自分で選べる |
いつから後見人の仕事が始まるか | 成年後見人の選任が完了したら | 任意後見監督人の選任が完了したら |
取消権はあるか | 取消権がある | 取消権は認められない |
貢献業務の内容 | 家庭裁判所の方針に従う | 契約内容に従う |
次章以降では、それぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。
2章 違い①:後見人を自分で決められるか
成年後見人は家庭裁判所が選任するのに対し、任意後見人は自分で後見人になってもらう人物を選べます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 成年後見人:家庭裁判所が選ぶ
成年後見人は被後見人や申立人が選ぶことはできず、家庭裁判所が選任します。
申立人が成年後見人の候補をあげることはできますが、最終的に決定権を持つのは家庭裁判所です。
2-2 任意後見人:自分で選べる
任意後見人は、自分が元気なうちに後見人となってくれる人物を選任可能です。
司法書士や弁護士などの専門家だけでなく家族や親族を、後見人とすることもできます。
ただし、下記の欠格事由に該当する人物は、後見人になれません。
- 未成年者
- 破産者
- 行方不明者
- 家庭裁判所から法定代理人などを解任されたことがある人
- 本人に対して裁判をしたことがある人、その配偶者と直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある人
3章 違い②:いつから後見人の仕事が始まるか
成年後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任した時点で後見業務が開始されます。
一方、任意後見制度では任意後見監督人の選任が完了したときから、後見業務が開始されます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 成年後見人:成年後見人の選任が完了したら
成年後見人の後見業務が始まるのは、家庭裁判所が後見人を選任したときからです。
なお、成年後見監督人は必要ないと判断されれば、選任されません。
3-2 任意後見人:任意後見監督人の選任が完了したら
任意後見人の後見業務が始まるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時からです。
任意後見契約を締結しただけでは、後見業務は始まらないことを理解しておきましょう。
任意後見人を選んだ後は、被後見人が認知症などで判断能力を失ったタイミングで後見人が任意後見監督人の選任申立てを行います。
そして、任意後見監督人が無事選ばれたときから後見業務がスタートする仕組みです。
4章 違い③:取消権の有無
成年後見人には取消権がある一方で、任意後見人には取消権が認められません。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 成年後見人:取消権がある
成年後見人には取消権があり、被後見人が結んだ契約などを後から取り消せます。
ただし、すべての法律行為で取消権を行使する必要はなく、法律行為や契約を取り消した方が被後見人本人の利益につながる場合のみ、取消権の行使が認められます。
4-2 任意後見人:取消権は認められない
成年後見人と異なり、任意後見人には取消権は認められません。
任意後見人に取消権が認められないのは、任意後見制度はあくまでも委任契約の一種であり、制度利用開始後も被後見人の能力が制限されることはないと考えられているからです。
5章 違い④:後見業務の内容
成年後見人は家庭裁判所の方針や指示に従って後見業務を行うのに対し、任意後見人は事前に被後見人と契約した内容に基づいて後見業務を行います。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
5-1 成年後見人:家庭裁判所の方針に従う
成年後見人は後見業務を行うにあたり、家庭裁判所の方針に従う必要があります。
具体的には、被後見人の利益を最優先して後見業務を行うことが求められます。
したがって、成年後見人が相続対策の一環で生前贈与を行うことや他に資産があるにもかかわらず施設入所にあたり被後見人の自宅を売却する行為は認められない可能性が高いです。
成年後見制度は認知症になり判断能力を失った人の財産管理方法の中でも、自由度か低いのがデメリットです。
相続対策なども行いたい、自由度の高い財産管理をしたいのであれば、本記事の6章で紹介する対策を行うのが良いでしょう。
5-2 任意後見人:契約内容に従う
任意後見人は被後見人と定めた契約内容に従って後見業務を行えます。
そのため、成年後見人よりも後見業務の自由度は高いといえるでしょう。
ただし、任意後見人も自由に後見業務を行えるわけではなく、任意後見監督人への定期報告などが義務付けられています。
6章 認知症の症状が軽度であれば任意後見制度や家族信託を利用しよう
認知症の症状が軽度であり、判断能力が残っている場合は、任意後見制度や家族信託を利用できる場合があります。
任意後見制度と家族信託について、詳しく見ていきましょう。
6-1 任意後見制度
任意後見制度は、自分が元気なうちにあらかじめ後見人になってくれる人物を選び、後見契約を結ぶ仕組みです。
被後見人が認知症などで判断能力を失ったタイミングで後見業務が開始されます。
後見人を自分で決められ、あらかじめ契約した内容に基づき財産管理を行ってもらえるため、成年後見制度よりも自由度が高いのが特徴です。
認知症の症状が重度であり判断能力を失ってしまうと、任意後見制度や家族信託は利用できず成年後見制度しか選択肢がなくなってしまいます。
しかし、成年後見制度は自由度が低く、相続対策なども行えなくなってしまうのがデメリットです。
認知症になった後の財産管理を家族に任せたい、希望の人物に遺産を譲りたいと考えている場合は、元気なうちに認知症対策をしておく必要があります。
6-2 家族信託
家族信託とは、自分の家族に財産の管理や運用、処分を依頼する制度です。
家族信託は成年後見制度や任意後見制度と比較して、柔軟な財産管理を行えるのが特徴です。
財産に不動産がある場合や自分の次の相続の承継先まで指定したい場合は、家族信託を活用するのが良いでしょう。
しかし、家族信託は柔軟な財産管理を行える分、自分に合う契約書を作成し手続きを進める難易度が高いです。
自分たちで手続きを進めるのは現実的ではないので、家族信託に詳しい司法書士や弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ
成年後見人も任意後見人も、認知症などで判断能力を失った人の財産管理や契約行為をサポートする人物である点は共通しています。
ただし、成年後見人と任意後見人では、選任方法や後見業務の自由度が異なります。
自由度が高いのは任意後見制度なので、後見人になってほしい人物がいる場合や柔軟な財産管理を行いたい場合は、任意後見制度を選択しましょう。
重度の認知症になり判断能力を失うと、成年後見制度しか利用できないので、元気なうちに認知症対策や相続対策を行うことが重要です。
認知症対策には複数の方法があるので、まずは司法書士や弁護士に相談してどのような方法があるのか、自分に合う方法はどれかを提案してもらうのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、認知症対策についての相談をお受けしています。
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