使用貸借契約は相続される?借主・貸主が死亡した場合をそれぞれ解説

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司法書士中川 徳将

 監修者:中川 徳将

この記事を読む およそ時間: 5

使用貸借とは、貸主が借主に無償で物を貸し出す契約です。
例えば、親が所有している土地や建物に子供を無償で住まわせる場合などが該当します。

使用貸借契約は、借主が亡くなったタイミングで契約が終了する一方で、貸主が亡くなったとしても契約は終了されません。

このように、使用貸借は貸主が亡くなった後も続き、場合によっては当事者間でトラブルに発展する場合もあります。
トラブルを避けるためにも、使用貸借を行う際には契約書を取り交わしておくと良いでしょう。

本記事では、使用貸借は相続されるのか、使用貸借で貸している土地や建物の相続税評価額計算方法を解説していきます。


1章 使用貸借とは

使用貸借とは、無償で物を貸し借りする契約です。
例えば、親の土地を子供が無償で借り、自宅を建てて住んでいる場合などが該当します。

使用貸借と対照的なのが賃貸借であり、賃貸借では借主が貸主に対して賃料を支払うことになります。
使用貸借では、賃料を支払っていない分、賃貸借よりも法律上の立場が弱いのが特徴です。
使用貸借と賃貸借における借主の立場の違いは、主に以下の通りです。

使用貸借賃貸借
対抗要件借主の地位を主張できない借主の地位を主張し、明け渡しを拒否できる
契約終了に関するルール
  • 原則、貸主側からいつでも契約を解除できる
  • ただし、契約で期間や使用目的に関する規定がある場合には、貸主が希望しても契約解除できない場合がある
借地借家法によって借主の立場が保護されていて、貸主側からの契約解除に制限がある
必要費用の負担先借主貸主
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2章 使用貸借は相続される?

使用貸借契約の相続における取り扱いは、借主が亡くなった場合と貸主が亡くなった場合によって異なります。
また、例外的なケースもあるので、具体的なケースや契約について確認したい場合には法律問題に詳しい司法書士や弁護士などの専門家に相談するのも良いでしょう。

借主、貸主がそれぞれ亡くなった場合に、使用貸借契約はどうなるのかを解説していきます。

2-1 借主が死亡したときに使用貸借は終了する

法律では、「使用貸借は借主の死亡によって、効力を失う」と規定されています。
そのため、亡くなった方が借主の立場として結んでいた使用貸借契約は、相続対象にはなりません。
例えば、亡くなった方が無料で借りた土地や建物に住んでいた場合、相続人は貸主に対して借りていた土地や建物を元の状態に戻して返却する必要があります。

ただし、上記のケースはあくまでも原則であり、例外的なケースもあります。
具体的には、下記に該当するケースでは、借主が亡くなった後も使用貸借を継続できる可能性が高いです。

【例外的なケース】

  • 使用貸借契約の中で特約を定めているケース
  • 相続人と貸主の間で新しく使用貸借契約を結んだケース

例えば、使用貸借契約の中で「借主が死亡した後も、使用貸借契約を終了しない」などと記載されている場合には、借主が亡くなっても使用貸借契約は続きます。

2-2 貸主が死亡したときは使用貸借は相続される

使用貸借契約を結んでいた貸主が亡くなった場合には、貸主としての地位が相続対象になると考えられています。
そのため、貸主が亡くなったとしても使用貸借契約が終了することはなく、亡くなった貸主の相続人が地位を引継ぎます。

もちろん上記も原則的な対応であり、使用貸借契約の特約で「貸主が死亡した場合には、契約を終了する」と定めておけば、貸主が亡くなったタイミングで使用貸借契約を終了可能です。

2-2-1 相続人は使用貸借契約をいつでも終了できる

相続人によっては、亡くなった人から引き継いだ使用貸借契約を終了したいと考えることもあるかもしれません。
使用貸借は賃料が発生していない契約であり、原則として貸主が契約解除を希望すれば、いつでも契約を終了できます。
ただし、以下に該当するケースでは貸主側が希望しても契約解除できない場合があるので、ご注意ください。

  • 使用貸借の契約期間が決められているとき
  • 使用貸借契約で使用収益の目的を定めており、借主が使用収益を終えていないとき

このように、貸主が亡くなった後も使用貸借契約を続けられるかは、相続人の対応によるところも大きいです。
例えば、親が子供に使用貸借で土地を貸していて、自分が亡くなった後も子供がその土地に住み続けられるようにしたいのであれば、遺言書の作成や生前贈与など相続対策をしておくのが確実です。

遺言書の作成や生前贈与は自分で行うこともできますが、必要に応じて司法書士や弁護士などの専門家への相談もご検討ください。


3章 使用貸借の相続税評価額計算方法

2章で解説したように、使用貸借契約を結んでいる貸主が亡くなった場合は、原則として相続人と借主の間で使用貸借契約が続きます。
貸主が亡くなった際には、使用貸借で貸している土地や建物の評価額を計算し、相続税の計算や申告をしなければなりません。

使用貸借している土地や建物の相続税評価額の計算方法は、借主が個人か法人かによって異なります。
それぞれ確認していきましょう。

3-1 借主が個人の場合の相続税評価額

使用貸借契約の借主が個人の場合には、無償で貸していた土地や建物の相続税評価額は通常の土地や建物の評価額と同様に計算をします。
本記事ですでに解説したように、借主が賃料を支払っていない使用貸借では、借主の立場が法的に弱く契約を貸主の都合で解除できると考えられているからです。

例えば、親が子供に無料で貸した土地に子供が建物を建てていた場合でも、土地の相続税評価額が減額されることはありません。

使用貸借の相続税評価額(借主が個人の場合)

使用貸借をしても相続税評価額は変わらないので、節税効果はないといえるでしょう。

それに対し、子供が親に対し賃料を支払う賃貸借であった場合、貸していた土地の相続税評価額は借地権を控除して計算されるので、相続税評価額を下げられます。
相続税対策としては有効ですが、貸主側から契約解除をしにくくなるなどのデメリットもあるので、行うのであれば税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

3-2 借主が法人の場合の相続税評価額

借主が法人のケースでは、税務署に対して「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているかによって相続税評価額の計算方法が変わります。
届出書の提出有無による相続税評価額の計算方法の違いを解説していきます。

3-2-1 土地の無償返還に関する届出書を提出しているケース

税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合には、借主が貸借権を認識していないと判断され、貸している土地の相続税評価額は減額されません。
借主が個人の場合と同様に、更地としての評価額をそのまま使用貸借している土地の評価額とします。

3-2-2 土地の無償返還に関する届出書を提出していないケース

税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出していない場合には、使用貸借で貸している土地の評価額から借地権を控除可能です。
そのため、届出書を提出しているケースよりも相続税評価額は下がります。


4章 使用貸借によるトラブルの事例と対処法

使用貸借は貸主が借主に対して、無償で物を貸し出す契約です。
法律上では賃料を支払っていない借主の立場が弱いとしても、貸主がなかなか契約解除を切り出せず、トラブルになってしまうケースも少なくありません。

さらに、使用貸借をしていた当事者が亡くなってしまい相続が発生した場合には、新たに貸主となった相続人と借主の関係性が薄くなってしまうケースもあるでしょう。
この場合、契約の継続もしくは終了の際にトラブルが起きやすく注意が必要です。

本記事では、使用貸借によるトラブル事例を3つ対処法と共に紹介していきます。

  1. 貸主の相続人から使用貸借を終了したいと言われる
  2. 借主が自分の子供を借りている建物に住まわせてしまう
  3. 貸していた建物を借主が勝手にリフォームしてしまった

それぞれ詳しく確認していきましょう。

4-1 貸主の相続人から使用貸借を終了したいと言われる

使用貸借契約は借主と貸主の合意によって成り立つ契約であり、親子間や親族間など親しい関係にある借主と貸主が行う場合が多いです。
そして、使用貸借契約は貸主が亡くなった後は、相続人が貸主の地位を相続します。

貸主の相続人と借主が親しい関係でない場合、新たに貸主となった相続人が使用貸借契約の終了を申し出る場合があります。
法律的には問題のない行為ですが、これまで無償で土地や建物を借りていた借主からしたら生活していく上で困ってしまうと考えるかもしれません。

借主が経済的に困窮している場合、貸主から出ていくように要求されても、すぐには出ていけない場合もあるでしょう。
貸主から突然、契約終了を言い渡されないようにするためにも、使用貸借契約を結ぶ際には期間や目的を定めておくと安心です。

4-2 借主が自分の家族を借りている建物に住まわせてしまう

長年使用貸借を行っていると、借主が土地や建物を自分の所有物のように扱ってしまうケースは多いです。
例えば、貸主に知らせず勝手に借主が「自分の息子夫婦」を借りている建物に住まわせてしまい、トラブルに発展する場合もあります。

「世話になった親戚の叔母さんが住むのであれば、建物を貸したい」などと考えている場合には、使用貸借契約の際に使用目的を定めておきましょう。
「叔母の居住用」などと使用目的を定めておけば、叔母が息子夫婦を勝手に住まわせた時点で契約を終了できます。

4-3 貸していた建物を借主が勝手にリフォームしてしまった

借主は使用貸借契約を終了する際には、原状回復をして貸主に土地や建物を明け渡す必要があります。
そのため、借主が勝手にリフォームしてしまった部分に関しては、元に戻してから返さなければなりません。

賃貸借と異なり使用貸借では、借主と貸主が契約書を交わさず土地や建物の貸し借りをしてしまうことも少なくありません。
しかし契約が長年続くと、借主や貸主の状況や関係性も変化してしまいますし、借主や貸主のどちらかが亡くなってしまい相続が発生してしまう可能性もあります。

借主や貸主、当事者の相続人がトラブルに悩まなくてすむように、使用貸借を行う際には契約書を作成しておくのが良いでしょう。

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まとめ

使用貸借とは、貸主が借主に対して無償で物を貸し出す契約です。
使用貸借を行っていた借主が亡くなった場合には、原則として使用貸借契約は終了します。
その一方で、貸主が亡くなったとしても使用貸借契約は終了せず、相続人が貸主の地位を引き継ぎます。

使用貸借契約が長期にわたり、契約期間中に相続が発生するケースなどでは当事者の関係性が変わってしまい、トラブルに発展するケースも多いです。
トラブルを避けるためにも、使用貸借を行う際には契約書を作成しておくのが良いでしょう。

自分が亡くなった後も、借主には使用貸借で貸している土地や建物に住み続けてほしいと考える場合には、自分が元気なうちに使用貸借契約書や遺言書を作成しておくのもおすすめです。
使用貸借契約書や遺言書の作成は自分でも行えますが、ミスなくスムーズに作成したいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士などへの相談もご検討ください。

グリーン司法書士法人では、使用貸借契約書や遺言書の作成を始めとした相続対策に関する相談をお受けしています。
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