- 相続発生時に受け継ぐ債務の種類がわかる
- 相続発生時に債務を遺産分割できるかわかる
- 亡くなった人の債務を受け継がない方法がわかる
亡くなった人が遺した債務も相続人が受け継ぎます。
亡くなった人が借金を遺しており、相続人が複数人いる場合は原則として債務者がそれぞれ法定相続分に従い債務を受け継ぎます。
ただし、一部の債務については相続人同士で分割できず、共同相続人全員が債務のすべてに対して責任を負います。
このように、亡くなった人が債務を遺していた場合は、債務の種類によってどのように受け継ぐかが変わってくるため注意が必要です。
また、そもそも亡くなった人の借金を受け継ぎたくない場合は、他の相続人に債務を引き受けてもらう、相続放棄するなどの対策がをしなければなりません。
本記事では、相続時に故人が遺した債務は分割できるのか、債務の種類や放棄する方法を解説します。
借金の相続については、下記の記事で詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
1章 相続発生時に受け継ぐ債務の種類
亡くなった人が遺した債務は相続人が受け継ぎますが、債務の種類によって取り扱いが変わります。
相続発生時に受け継ぐ債務の種類は、主に下記の3種類です。
- 可分債務
- 不可分債務
- 相続財産に含まれない債務
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 可分債務
可分債務とは名前の通り、分割することができる債務であり「借金100万円」などは可分債務に分類できます。
亡くなった人が遺した債務が可分債務に該当する場合、相続発生時に債務は法定相続分に従い各相続人が受け継ぎます。
遺産分割協議によって、法定相続分と異なる割合で相続人が債務を受け継ぐことができますが、債権者からの請求に対抗する効力はないのでご注意ください。
1-2 不可分債務
不可分債務とは、分割できない債務であり「故人が生前売却した不動産を買主に名義変更し、引き渡す義務」などが該当します。
不可分債務は可分債務と異なり分割できないため、相続発生後は共同相続人全員が債務全体の履行責任を負わなければなりません。
不可分債務に関しても遺産分割協議で「長男Aが履行する責任を負う」などと決めることはできるものの、債権者に対して主張することはできません。
1-3 相続財産に含まれない債務
亡くなった人が負っていた債務のうち「一身専属の債務」については、相続財産に含まれないため、相続人が受け継ぐことはありません。
一身専属の債務とは、亡くなった人のみが負う債務であり「アーティストだった故人が依頼された作品を完成させる義務」などが該当します。
このように作品を完成させる義務は、相続人が受け継ぐ必要はありません。
2章 相続発生時に債務は遺産分割できる?
本記事の1章で解説した債務のうち①可分債務と②不可分債務は、相続発生後に相続人が受け継ぎます。
ただし、故人と相続人の関係や借金の金額、理由によっては特定の相続人が故人の債務を受け継ぎたいと考えるケースもあるでしょう。
本章では、相続発生時に債務を遺産分割できるのか詳しく解説していきます。
2-1 可分債務は法定相続分での分割が原則
数量的に分割できる可分債務は、相続発生後は法定相続分で相続人が受け継ぐことが原則とされています。
法定相続分は、相続人の構成ごとに下記のように指定されています。
法定相続人 | 法定相続分 | 備考 | |
配偶者のみ | 配偶者100% | ||
配偶者+子 | 配偶者 | 1/2 | 子が複数人いる場合は均等に分配 |
子 | 1/2 | ||
配偶者+両親などの直系尊属 | 配偶者 | 2/3 | ・親が複数人いる場合は均等に分配 ・被相続人に最も近い世代のみが相続人となる。親・祖父母ともに存命の場合でも、親のみが相続人となります。 |
両親などの直系卑属 | 1/3 | ||
配偶者+兄弟・姉妹 | 配偶者 | 3/4 | |
兄弟・姉妹 | 1/4 | ||
子のみ | 子100% | ||
両親などの直系尊属のみ | 両親100% | 親が複数人いる場合は均等に分配 | |
兄弟・姉妹のみ | 兄弟・姉妹100% | 兄弟・姉妹が複数人いる場合は均等に分配 |
なお、相続人全員で誰がどの遺産をどれくらいの割合で受け継ぐかを決定する「遺産分割協議」において、それぞれの相続人が受け継ぐ債務の割合を決定することも可能です。
そのため「自宅の不動産を受け継ぐ長男が故人の債務を受け継ぐ」などと取り決めることも認められています。
ただし、遺産分割協議において決めた債務の相続割合を債権者に認めてもらうには、債権者が事前に承諾しなければなりません。
債権者にとって、債務の負担割合や負担する相続人を決めるメリットは少ないので、承諾してくれる可能性は低いと思っておきましょう。
そのため、仮に「長男が故人の債務を受け継ぎ返済する」と相続人間で取り決めていたとしても、債権者が他の相続人に対して故人の債務を返済するよう請求してくる可能性は十分にあります。
2-2 不可分債務は相続人全員がすべての責任を負う
不可分債務は分割することができないため、相続人全員がすべての責任を負います。
そのため、債権者は共同相続人の誰に対しても債務全体の履行を請求できます。
なお、不可分債務についても遺産分割協議などで特定の相続人が債務を履行することを決められますが、債権者に対しては主張できないのでご注意ください。
3章 亡くなった人の債務を受け継がずにすむ方法
本記事の2章で亡くなった人の債務を受け継ぐ割合について解説しましたが、そもそも「亡くなった人の債務を受け継ぎたくない」「借金の請求をされても困る」と感じる人も多いでしょう。
亡くなった人の債務を受け継ぎたくない場合は、他の相続人に債務の引き受けをしてもらう、相続放棄するなどの対応が必要です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 他の相続人に債務引受をしてもらう
本記事の2章で解説したように、遺産分割協議の際に他の相続人が債務を引き継ぐように指定できます。
相続人全員が合意していれば、債務を引き継ぐ相続人を指定することや相続する債務の割合を変更できます。
ただし、遺産分割協議で決めた債務を受け継ぐ人物や受け継ぐ割合については、相続人以外には効力を持ちません。
したがって、債権者から故人の債務について請求された際には、法定相続分に応じて返済しなければなりません。
一方で、債権者が特定の相続人が債務を引き受けることに合意した場合、免責的債務引受がなされたとみなされるため、特定の相続人のみが返済義務を受け継ぎます。
3-2 相続放棄する
相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がずにすむので、故人が遺した借金を受け継がずにすみます。
ただし、相続放棄をすると預貯金や不動産などの財産も受け継ぐことができなくなるので慎重に判断しなければなりません。
相続放棄をする際には、自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをする必要があります。
家庭裁判所の申立て方法および必要書類は、下記の通りです。
申立てする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
申立て先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
|
4章 相続放棄をする際の注意点
相続放棄をする際には、プラスの財産を一切受け継げなくなることや申立てに期限があることに注意しなければなりません。
相続放棄をする際の注意点は、下記の通りです。
- 相続放棄には期限がある
- プラスの財産も一切受け継げなくなる
- 遺産を処分すると相続放棄できなくなる恐れがある
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 相続放棄には期限がある
相続放棄は「自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内」と期限が設定されています。
上記のイラストのように期限の起算点は「自分が相続人であること知ったとき」であり、相続人や相続の状況によって期限は変わってきます。
「期限に間に合いそうにない」と思っても申立て手続きが認められる可能性もあるので、相続放棄をしたい場合には申立ての可否も含めて相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
相続放棄に精通した司法書士や弁護士であれば、相続放棄できるかの判断や期限が迫っているときの申立て手続きにも対応できます。
4-2 プラスの財産も一切受け継げなくなる
相続放棄とは、最初から相続人ではなかった扱いになる制度であり、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
そのため、故人が債務を遺していたもののそれ以上に多額の財産を遺していた場合、相続放棄をせずに債務を受け継いでしまった方が得な場合もあります。
相続放棄の申立てが認められると、原則として取り消すことはできないので慎重に判断しましょう。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、相続財産調査を行い相続放棄すべきかのアドバイスもできますので、まずは相談してみることをおすすめします。
4-3 遺産を処分すると相続放棄できなくなる恐れがある
相続放棄をする場合、遺産を処分してしまうと、相続放棄が認められなくなる恐れがあるのでご注意ください。
遺産を処分してしまうと「相続する意思がある」と判断されてしまうからです。
相続放棄を希望するのであれば、亡くなった人の車の処分や遺品整理、住んでいた自宅の片付けなども自己破断で行うのは避けた方が良いでしょう。
自己判断で行ってしまい相続放棄が認められなくなることを防ぐためにも、相続放棄を検討した段階で司法書士や弁護士に相談し、指示を仰ぐと安心です。
まとめ
亡くなった人の債務は相続人が受け継ぎ、債務の種類によって受け継ぐ割合や取り扱いが変わってきます。
突然、債権者から亡くなった人の借金を請求されて慌てることがないように、相続が発生した際には亡くなった人が借金を遺していたか確認しましょう。
また、亡くなった人の債務が多く相続するメリットが少ないのであれば、相続放棄もご検討ください。
相続放棄をすれば亡くなった人の借金を受け継がずにすみますが、一度申立てが認められると取り消せない、申立てには期限があるため注意が必要です。
相続放棄を確実に行いたいのであれば、相続放棄に精通した司法書士や弁護士に相談し、申立てを行ってもらうのが良いでしょう。
専門家であれば、相続放棄すべきかの判断や亡くなった人が住んでいた自宅の片付けについてなどもアドバイスできます。
グリーン司法書士法人では、相続放棄に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。